宿便
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宿便(しゅくべん)とは、数週間程度以上腸壁にこびり付いているとされる便のことである。 便秘のことではない。
健康関係の情報でよく使われ、断食によってはじめて排泄されるとされる。この手の言説では、こうして腸壁が清掃されるため断食に健康増進の効果があるとされるほか、断食しなくても宿便排泄に効果があるとされる健康食品の宣伝が行われることが多い。
しかし、医学的、生物学的な研究によって宿便の存在が確認されたことはない。例えば、人間の腸には多数の襞があるのでその谷間に便が滞留しており、断食の際に排泄されると説明されるが、内視鏡で観察してもそのようなものは見あたらない。
小腸の内壁の表面には、柔毛という無数の小突起でおおわれおり、これらは栄養素を吸収するための効率をあげるため無数の突起で表面積を増やしているが、これを構成する細胞は、新たに増殖し供給される細胞によって約24時間で突起の頂上まで押し上げられていき、頂上に達するとはがれ落ちて排泄されている。大腸の腸壁には柔毛はないが、新しく増殖した細胞が次々に出現し、古い細胞が剥がれ落ちて更新している点は同様である。このように腸壁に便が癒着する事はありえない。
断食中であってもこのように上皮細胞の更新が起きるほか、粘液線から分泌される粘液が、腸管内には常に供給されている。つまり、断食中でも腸内細菌は、これらを餌に繁殖を続けており、その一部は肛門から排泄される。つまり宿便と言われているものは、こうして維持されている腸内細菌の一部と腸壁上皮細胞とが排泄されたもの、言わば腸から出る垢に過ぎない。