小説ウィザードリィ 隣り合わせの灰と青春
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隣り合わせの灰と青春(となりあわせのはいとせいしゅん)はコンピュータRPGの古典的名作『ウィザードリィ』(Wiz) 第1作である「狂王の試練場」を題材にした小説。著者はベニー松山。
JICC出版局(現・宝島社)の『ファミコン必勝本』に連載され、加筆・修正されて1988年11月に同社より単行本が出版された。表紙イラストは末弥純。その後、1998年12月に集英社スーパーファンタジー文庫に再録。こちらの表紙は緒方剛志。
コンピュータゲームのノベライズとしては最初期の作品。ストーリーというものが殆ど存在しない迷宮探索ゲームであるウィザードリィから、冒険やモンスターの描写を想像力豊かに膨らませて紡がれた物語はファンの間で評価が高い。コメディ的な要素を廃し、シリアスな冒険世界が作り上げられている。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
目次 |
[編集] ストーリー
戦に明け暮れる狂王トレボーが治める城塞都市。悪の魔術師ワードナはトレボーから絶対無敵の魔法障壁を作り出す「魔除け」を盗み出し、巨大な地下迷宮を築き、モンスターたちを召喚しそこに立てこもってしまった。トレボーは激怒し、軍隊を派遣するも、モンスターのうろつく狭いダンジョンでは軍隊が有効に機能せず、全滅してしまった。トレボーの参謀は一計を案じ、冒険者たちを募り、魔除けを奪還したものには多大な褒章を与えるというお触れを出した。これにより、トレボーの城塞には各地から戦士、盗賊、魔術師、僧侶など様々な冒険者達が集うようになり、今日も迷宮へと向かっていった。
スカルダもそんな冒険者の一人であった。戦士のガディ、盗賊のジャバ、僧侶のベリアル、魔法使いのシルバーとサラと6人のパーティーを組みワードナの魔除けを奪還すべく他のパーティーと激しい争いを繰り広げていた。しかし、そんな最中、魔法使いのシルバーが戦闘で命を落とし、還らぬ人となってしまう。バルカンという全ての呪文をマスターした謎めいた冒険者を新たに雇うのだが、スカルダとは方向性の違いから対立してしまう。パーティの不和、他のパーティによる妨害工作、そして恐るべき迷宮の罠とモンスター達を切り抜けて、ワードナに対峙した冒険者達が知る真実とは…?
[編集] 主な登場人物
[編集] 善のパーティー
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- スカルダ
- 主人公。人間族の男性。善(グッド)の戒律の戦士であったが、シルバーを失った敗戦をきっかけに、自分の力に限界を感じ「侍」に転職する。本作では、侍は戦士と異なり、「気」を使いこなすことで他者の動きを読み、鋭い刃で敵を切断するとされている。
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- ガディ
- 人間族の男性。中立(ニュートラル)の戦士。幼い頃から剣を握って生きてきた大男だが、性格は温和。スカルダとは異なり、戦士としての強さを追求し続ける道を選ぶ。
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- ジャバ
- 人間族の男性。中立の盗賊であったが、シルバーの死による戦力不足を補うため、マジックアイテム「盗賊の短刀」で「忍者」に転職する。
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- ベリアル
- 人間族の男性。善の戒律の僧侶。本編中では、死者に回復術と蘇生術を同時にかけることで確実な蘇生を行うという秘術を披露するが、これは元となるゲームの「MADI(回復呪文)を死者に使ってからKADORTO(蘇生呪文)をかけると蘇生確率が上がる」という裏技を反映したもの。
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- サラ
- 人間族の女性。中立の魔法使い。酒癖が悪く、しばしば酔ってギルガメッシュの酒場で騒ぎを引き起こしている。
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- シルバー
- 人間族の男性。善の戒律の魔法使い。老齢だが全レベルの呪文を取得している達人。彼がグレーターデーモンとの戦いで死に、カント寺院から蘇生失敗を宣告されるところから物語は始まる。
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- バルカン
- 悪(イビル)の戒律の魔法使い。常にフードを被っており顔を見せない。シルバーの穴を埋める臨時の仲間としてパーティに参入する。
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- その正体は、迷宮で戦死したトレボー配下の侍、ナックラーヴ。グレブナーグの妖術によって、魂が自らの屍に宿るかたちで蘇生した。善のパーティーがワードナに共感して「魔除け」を持ち帰らない場合を想定し、独自に「魔除け」を確保するようトレボーからの密命を受けて善のパーティーに潜入している。ちなみにバルカン(Vulcan)の綴りを逆さにするとナックラーヴ(Nacluv)になる。
[編集] 悪のパーティー
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- ゴグレグ
- ドワーフ族の男性。悪の戒律の戦士。人間並みの身長を持つ(ドワーフ族としては)巨漢。ある理由からガディをライバル視する。
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- ハ・キム
- ホビット族の男性。悪の戒律の忍者。希少品である「手裏剣」を手に入れるために好んで迷宮の忍者と戦っていたことから「忍者殺し」の異名を持つ。
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- アルハイム
- 人間族の男性。悪の戒律の僧侶。ベリアルの弟弟子だったが悪に転向した。各地の呪術を取り入れた独自の解呪(ディスペル)を使う。
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- サンドラ
- ノーム族の男性。悪の戒律の魔法使い。ルードラの双子の兄。
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- ルードラ
- ノーム族の女性。悪の戒律の魔法使い。兄妹のひそひそ話に紛れて不意に呪文を唱えてくる。
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- ラシャ
- 人間族の女性。中立の盗賊。ジャバとは乳兄妹の関係に当たる。ジャバを追ってトレボー城塞へやって来たがジャバに追い返され、当てつけのように悪のパーティーに参加している。
[編集] その他
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- トレボー
- 城塞都市の王。侵略戦争を好む攻撃的な性格から「狂王」と称される。迷宮の探索には大規模な軍勢は不向きと知り、少数精鋭の志願者による探索を唱えて軍の訓練場を一般解放する。
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- ワードナ
- トレボーから「魔除け」を奪い、魔物が潜む迷宮に立て篭もった大魔法使い。
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- 「魔除け」の製作者。平和を望んで「魔除け」をトレボーの父王に託し、国家平定の助けとするが、父王の死後トレボーが「魔除け」を侵略戦争に使ったことを憂い、「魔除け」を奪った。「魔除け」奪還のために大勢が迷宮に挑むことで、己の肉体から強い力を引き出す者が増え、真の平和を築いていくことを願って悪役を演じている。実は最初の討伐戦において、ナックラーヴと相打ちになり死亡しているが、生霊と化して何度でも蘇り、「魔除け」を求める者と戦い続ける。これは、元となるゲームにおいて「魔除け」を所持していなければ何度でもワードナと戦えるという現象に対する本作独自の回答。
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- ヴァンパイアロード
- 不死族の王でありながらワードナに忠誠を誓い、彼の側近を務める美しき吸血鬼の王。
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- ハスターガル
- 迷宮の一角に居を構える大魔法使い。他者を強制転移させる呪文「マピロ・マハマ・ディロマト」を取得しており、自分の部屋に入り込んだ者を容赦なく地上へ転移させる。シルバーと親交があり、その繋がりで善のパーティーとは親しく話をする。
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- ナックラーヴ
- トレボー近衛隊に所属していた侍。伝説の妖刀「村正」を所持していた。最初のワードナ討伐隊を率いたが敗北し、生死不明となっている。
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- グレブナーグ
- トレボー近衛隊に所属する魔法使い。トレボーの軍師として、知略と妖術を以って暗躍する。名前の由来は原作ゲームの開発者であり、ワードナ(Werdna)の名の由来でもあるアンドリュー・グリーンバーグ(Andrew Greenberg)のファミリーネームの逆さ読み。
[編集] 関連作品
以下に挙げるベニー松山の著作と共通の世界設定を持つ。
- ウィザードリィのすべて(攻略本)
- 不死王
- ウィザードリィCDドラマ1 ~ハースニール異聞~
- 風よ。龍に届いているか