愛媛県靖国神社玉串訴訟
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愛媛県靖国神社玉串訴訟(えひめけんやすくにじんじゃたまぐしそしょう)とは愛媛県が靖国神社に対し毎年玉串料を「戦没者の遺族の援護行政ために」支出した事に対し最高裁が違憲判決を出した訴訟である。(ただし最高裁裁判官15名のうち2名は合憲とした合議割れであった)
この判決は、最高裁が政教分離に違反するとして違憲判断をした初めてのものであった。この判決は、靖国神社への首相の公式参拝を主張する一部の保守層からは批判された。一方で、政府が「靖国神社問題」へなし崩し的に関与していると考え、それに反対している人たちからは高く評価された。
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[編集] 訴訟理由
愛媛県は靖国神社が挙行していた例大祭や慰霊大祭に際し玉串料、献灯料又は供物料を県の公金から支出していた。この行為は日本国憲法20条3項および89条に違反するとして、愛媛県知事に対し指揮監督上の義務に違反しているとして、真宗の僧侶を原告団長とする愛媛県の住民団体が損害賠償訴訟を提起した。
[編集] 下級審での判決
1審の松山地裁は県と靖国神社の結びつきが相当な限度を超えた宗教的活動であるとして違法であると判断した。しかし2審の高松高裁は宗教的意義はあるが公金支出は小額であり社会的儀礼の程度であり、玉串料を出した知事の行為は遺族援護行政の一環であり宗教的活動に当たらないとして合憲とした。
[編集] 最高裁の判決
最高裁は1997年4月2日に、判決文のうち2審が合憲とした部分を破棄し、愛媛県が公金支出した玉串料は、香典など社会的儀礼としての支出とは異なり、靖国神社という特定の宗教団体に対して玉串料をするもので援助・助長・促進になるとして憲法20条3項の政教分離と同89条に違反するとした。
そのため住民が請求した玉串料として支出した9回で合計4万5000円などを愛媛県知事が県当局に返還するように命じたものである。これは僅かな金額の支出であっても、宗教団体への公的機関による公金支出の違憲か否かの判断基準である「目的効果規準」を厳格に適用したものであった。
これは、宗教的儀式の形式であっても、宗教的意義が希薄化した地鎮祭などの慣習化した社会的儀式とは違い、靖国神社という特定の宗教団体が主催する重要な宗教的色彩の強い祭祀と関わりを県が玉串料の支出を通して持つものであり、国もしくは地方公共団体が宗教的意義を目的とした行為であり特定の宗教への関心を呼び起こす危険性が重要視されたものである。
また、戦前の靖国神社は大日本帝国憲法で保障されていた信教の自由に抵触するのを回避するために、「神社神道は宗教にあらず」として国家と結びついたために様々な弊害が生じていたなかでも、特に国家との結びつきが顕著であり、国軍の兵士として戦死すれば軍国の神・英霊として合祀することで国民国家の形成のための宗教の政治的利用が公然と行われていた、忌まわしい過去があった。そのような悪弊を生じないためにも政教分離規定が日本国憲法に設けた経緯があるため、最高裁は「我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超える」ものであり、県による宗教的活動のための違法な公金支出と判断したものであった。
[編集] その後の経緯
最高裁判決以降、靖国神社への公金支出は控えられるようになった。しかし、この判決は政治家による靖国神社への参拝に対して違憲判決をしたものではないため、政治家による靖国神社参拝にはほとんど影響を与えていないとされる。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 上告審判決(裁判所ウェブサイト)