排気再循環
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
排気ガス再循環(はいきガスさいじゅんかん、英語:Exhaust Gas Recirculation)とは、内燃機関において燃焼後の排気ガスの一部を取り出し、吸気側へ導き再度吸気させる技術(手法あるいは方法)であり、主として排出ガス中の窒素酸化物 (NOx) 低減や部分負荷時の燃費向上を目的として行われる。英語表記の頭文字をとって "EGR" と通称される。
目次 |
[編集] 概要
内燃機関において燃焼後の排気ガス中には酸素は含まれていないか、もしくは希薄な状態にある。この排気を吸気と混ぜると吸気中の酸素濃度が低下する。このことにより、
- 大気より酸素濃度が低い状態での燃焼により、その(ピーク)燃焼温度が低下する。これにより窒素酸化物 (NOx) の発生が抑制される。
- 燃焼温度の低下は、シリンダおよび燃焼室壁面やピストン表面からの熱エネルギー放散を低減し、また、熱解離による損失の低減にも若干ながら寄与する。
- ガソリンエンジンでは、部分負荷においてシリンダ内に非 EGR 時と同一の酸素量を供給する(同一軸出力を得る)ために必要なスロットル開度が大きくなり、その結果、吸気時のポンピング(スロットル)損失が少なくなることで燃料消費率が向上する。つまり、ピストン1ストローク当たりの吸入酸素量が減少することで、あたかも小排気量のエンジンのアクセルを踏み込んで走行するのと同等の効果が得られる。
EGR による還流量は、ガソリン機関の場合において(吸気量中で)最大 15 % 程度であり、アイドリング時及び高負荷時にはストップさせる。車両重量に比してエンジン出力の小さい大型ディーゼル車両では、比較的高負荷においても排出ガス基準をクリアしなければならないため EGR の適用範囲が広い。
[編集] 歴史
EGR 技術は当初(三元触媒が実用化される以前、1970年代)、ガソリン機関において酸化触媒では浄化できない NOx の低減対策として導入された。しかし、還流量や燃料噴射量を精密に制御できない場合には燃焼を安定させるために吸気混合比を高く(ガソリン過剰)設定せざるを得ず、むしろ燃費が悪化する結果を生んだ。その後、制御技術が向上し、また三元触媒が実用化された現在では、排出 NOx 対策よりも燃費向上目的で用いられている。
原理上スロットルバルブを持たないディーゼル機関においてはスロットル損失に関する効果はないので、1990年代前半より、主として NOx 低減目的での EGR が行われているが、排気中に存在する多量の二酸化炭素および水蒸気は大気に比べ比熱容量が高いので、若干の燃料消費率向上にも役立っている。
[編集] 技術
実際の排気ガス還流は、吸気及び排気の両マニフォルドを、中間に制御バルブを挿入したパイプ等で接続し、制御バルブの開度や開弁時間を変化させて流量増減を行う。
高温の排気還流による吸気充填効率の低下も無視できないので、大型ディーゼル機関のほとんどは熱交換器による冷却機構を持つ(クールドEGR、クール EGR)[1]。多くはエンジン冷却水の一部を分流し、冷却機構で吸収した熱はラジエターにより排熱するが、これによりラジエターに必要な放熱量は最大で 30 % 程度増加し,冷却ファンの大型化その他による重量増を招く[2]。
また、ターボチャージャー等の過給器を備えた大型ディーゼル機関で高負荷時に EGR を行おうとすると、吸気ポート圧力の方が排気のそれより高くなり、単純なバルブの開閉だけでは還流ができない事態を生ずる。このため、EGR 制御バルブにチェックバルブ機能を設ける[3]、ターボチャージャーの可変ノズルを制御して背圧を高める、吸気行程中に排気バルブを僅かに開放し排気ポート内の他シリンダからの燃焼済みガスを再吸入する等の対策が採られている[2]。
理論上は EGR 量を変えていけばガソリン機関のスロットルバルブ廃止も可能であるが、大量の EGR は点火が困難になるなど燃焼を不安定にしやすく、安定したアイドリングの制御が難しい等の理由により実用化はされていない。
EGR および希薄燃焼(リーンバーン)技術は大いに関連性を持ち、さらには筒(シリンダ)内直接噴射技術も希薄な混合気下でいかに安定した燃焼を得るかを課題としたものである。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- ^ "クールドEGRシステム" いすゞ自動車. 2007年1月16日閲覧.
- ^ a b "日野自動車プレスリリース NO.03-028 2003年9月18日" 日野自動車. 2007年1月16日閲覧.
- ^ "ワンウェイ・クールドEGRシステム" いすゞ自動車. 2007年1月16日閲覧.
[編集] 外部リンク
- ホンダFit(本田技研工業Fact Book)