朝鮮語規範集
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朝鮮語規範集(ちょうせんごきはんしゅう、조선말규범집)は、朝鮮民主主義人民共和国(以下「北」)における現行の朝鮮語の正書法である。この正書法は1954年の朝鮮語綴字法(조선어 철자법)を改訂したものである。1966年6月に国語査定委員会で制定し1987年5月15日に改訂したものが現行のものである。ここでは文化語発音法を除く1987年改訂版について、大韓民国(以下「南」)の現行正書法であるハングル正書法(한글 맞춤법)と異なる部分を中心に記述する。南北の言語的な差異全般については「朝鮮語の南北間差異」を参照せよ。
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[編集] 構成
朝鮮語規範集は表記法(総則、7章26項)、分かち書き(総則、5章22項)、文章符号法(総則、20項)、文化語発音法(10章31項)、縦書きの5つの部門で構成されている。章の構成は以下の通りである。
- 表記法
- 総則
- 第1章 朝鮮語字母の順序とその名称
- 第2章 形態部のつづり
- 第3章 語幹と吐のつづり
- 第4章 合成語のつづり
- 第5章 接頭辞と語根のつづり
- 第6章 語根と接尾辞(または一部の吐)のつづり
- 第7章 漢字語のつづり
- 分かち書き
- 総則
- 第1章 名詞に関する分かち書き
- 第2章 数詞、代名詞に関する分かち書き
- 第3章 動詞、形容詞に関する分かち書き
- 第4章 冠形詞、副詞、感動詞に関する分かち書き
- 第5章 特殊な言葉、特殊な結びつきにおける分かち書き
- 文章符号法
- 総則
- 各論(第1項~第20項)
- 文化語発音法
- 総則
- 第1章 母音の発音
- 第2章 初声の発音
- 第3章 終声字母に関する発音
- 第4章 終声の連音現象に関する発音
- 第5章 終声の断音現象に関する発音
- 第6章 濃音化現象に関する発音
- 第7章 「ㅎ」の激音化現象に関する発音
- 第8章 同化現象が起こるときの発音
- 第9章 挿入音に関する発音
- 第10章 弱化または脱落現象に関する発音
[編集] 表記法
総則では「朝鮮語表記法は単語において意味を持つ各部分を常に同一につづる原則を基本としつつ、一部の場合に発音のままにつづったり、慣習に従うことを許容する。」と規定されている。これは形態主義の原則に従ってつづることを宣言したものであり、南のハングル正書法と同じである。
以下に南の正書法であるハングル正書法と異なる点をまとめる。
[編集] 語尾の表記
語尾においてㄹの直後が濃音で発音されるものは平音でつづることになっている(第6項)。同様の規定は南にもあるが(ハングル正書法第53項)、南では「-ㄹ까,-ㄹ꼬,-ㅂ니까/-습니까,-리까,-ㄹ쏘냐」は濃音でつづるとある。従って、南の「-ㄹ까,-ㄹ꼬,-ㄹ쏘냐」は北では「-ㄹ가,-ㄹ고,-ㄹ소냐」とつづられる。
用言の-아/-어形において、語幹末音がㅣ,ㅐ,ㅔ,ㅚ,ㅟ,ㅢである母音語幹は-여を付ける(第11項)。同様にして、用言の-아/-어形から派生した副詞もこれに従う。この規定は1930年に朝鮮総督府が定めた「諺文綴字法」の規定と同じである。南では「-아/-어」の2形態の原則に従い「-어」とつづる。
- 기여(這って),개여(晴れて),베여(枕して),되여(なって),쥐여(握って),희여(白くて)
- 도리여(かえって),드디여(ついに)
[編集] 縮約形の表記
用言の縮約形において、一部に南北で規定の違いが見られる。
語幹末がㅏ/ㅓおよびㅣの母音語幹の-아/-어について、南では「가아(行って),서어(立って),치어(打って)」を認め、さらにその縮約形「가,서,쳐」を許容するとしているが、北では「가아,서어,치여」という形自体を認めず必ず縮約された形で用いるとしている(第12項)。ただし、実際には南においても「가아,서어,치어」という形は用いられないので、実際の運用においては南北で違いはない。
用言に接尾辞-이-が付いた「쏘이다(撃たれる)」などの縮約形は南北ともに「쐬다」などを認めているが、その-아/-어形である「쏘이여(撃たれて)」(南は「쏘이어」)などについては、南では「쐬여,쏘여」などの2つを認めているのに対し、北では「쐬여」などのみを認めて「쏘여」などは認めていない(第12項)。
「하다(する)」の縮約形において、南では「넉넉지 않다 < 넉넉하지 않다(十分でない)」のように「하」の脱落形を容認しているのに対し、北では「넉넉치 않다」のように激音化する場合のみを認めている(第13項)。
[編集] 合成語の表記
南における「사이시옷(間のㅅ)」は、北では一切表記しないのが原則である。
- 나무가지(木の枝)― 南では 나뭇가지
ただし、以下の単語については混同を避けるために사이시옷に使用が例外的に認められている。
- 샛별(明星) ― 새별(新星)
- 빗바람(雨まじりの風) ― 비바람(雨風)
また、「뒷-(後ろの),웃-(上の)」などは1つの接頭辞と見なしているため、「ㅅ」は사이시옷扱いにはされていない(第18項)。
南では「앞니(前歯)」のように「이(歯、しらみ)」の合成語は例外的に「니」とつづることになっているが、北にはそのような規定がないので「앞이(前歯)」のように原則通りにつづる。
[編集] 漢字語
漢字語は個々の漢字の本来の漢字音の通りにつづることになっている(第25項)ので、語頭にㄹやㄴが立ちうる。
- 락원(楽園),례외(例外),녀자(女子)
ただし、いくつかの単語については慣用音に従って表記することになっている。
- 나사 < 라사(ねじ),나팔 < 라팔(らっぱ)
- 류월 < 륙월(六月),시월 < 십월(十月)
[編集] 分かち書き
分かち書きの規定に関して、北ではこの朝鮮語規範集が制定された後、2000年に「朝鮮語分かち書き規範(조선말 띄여쓰기규범)」が制定され、さらに2003年に「分かち書き規定(띄여쓰기규정)」が定められ、これが現行の分かち書きの規範になっている。ここではそれら新たな規定には言及せず、1987年の朝鮮語規範集の規定について、南の現行正書法と異なる点を述べる。
[編集] 1つの対象としてまとめられる単位
北ではいくつかの名詞が体言語尾(助詞)を介さずに組み合わさって1つの概念を表している場合、それを分かち書きせずに続けて書くのを原則としている(第2項)。南でも一部は続け書きが許容されているが、北の場合は続け書きが原則となっている点で大きく異なる。
この続け書きの規定はひじょうに細部にまでわたっている。その一部を以下に抜粋する。
- 機関名や「局、処、課…」などの組織機構体系の名称とその職名の間は、省略がない限り分かち書きする。
- 例:조직계획처 처장(組織計画処処長),강연과 과장(講演課課長)〔後略〕
- しかし、機関・部署の名称と職名の間が省略された場合にはそれらを続け書きする。
- 例:정무원총리(政務院総理),도당책임비서(道党責任秘書)〔後略〕
- 同格やこれに準ずる単位は分かち書きする。
- 例:―〔前略〕박사 김준식(博士・キムジュンシク)〔後略〕
- 称号・職名などが後ろに来るときはそれらを前に付ける。
- 例:―〔前略〕김춘식박사(キムチュンシク博士)〔後略〕
- しかし、後ろに来る称号や職名を付けて書くことで違って理解されうる場合には分かち書きしうる。
- 例:김철 부부장(キムチョル副部長)〔後略〕
[編集] 不完全名詞
不完全名詞(依存名詞、形式名詞)は前の単語に付けて書く(第3項)。
- 그분(その方),누구탓(誰のせい)
- 좋은것(よいもの),갈리 없다(行くはずがない)
位置名詞や時間名詞も同様にして前の単語に付けて書く。
- 학교앞(学校の前),그날밤(その日の夜)
ただし、「등(など),대(対),겸(兼)」などは分かち書きすることになっている。
[編集] 用言
合成用言(補助用言を含む)は続け書きする(第10項)。
- 돌아가다(帰る),적어두다(記しておく)
- 밀고나가다(押し通す),읽고있다(読んでいる)
-아/-어形で結ばれた用言は南でも続け書きが許容されているが、-고形で結ばれたものは南では分かち書きする。
「体言+用言」の構成で1つの用言をなすものは続け書きする(第11項)。これらの一部は南でも続け書きされる。また、用言が副詞形を取るものもこれに準ずる。
- 앞서다(先立つ),의리깊다(義理深い)
- 가슴깊이(胸深く),두말없이(言うまでもなく)
[編集] 文章符号
文章符号について特徴的なものをいくつか挙げる。
- 句読点は「,.」を用いる。ただし「,」の用法についてはかなり細かい規定がある。複文の境界などには用いず、全体的に使用は少ない。
- 引用符は、横書きの場合には「《 》」を用いる。これはロシア語正書法における「« »」に倣ったものと推測される。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 朝鮮語規範集(ハングル学会) (朝鮮語)