松下文法
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松下文法(まつしたぶんぽう)は、松下大三郎による文法理論である。言語の普遍的性質についても考察し、一般理論を志向するものである。独特の用語法により近づきがたい部分もあるが、構造概念を洗練されたものに仕上げ、文を構成する要素のレベルの違いを厳密に捉えるものである。
松下の理論においては、文の構成要素は次のものからなる:
- 断句(文に相当)
- 詞(文を直接構成する要素)
- 原辞(形態素に相当)
「詞」と「原辞」には、統語論の要素と形態論の要素というレベルの区別が担わされている。例えば名詞「桜を」「桜」はともに詞であり、「桜」はまた原辞でもある。これは形態論における自由形式が統語論における語にもなることを考えると理解しやすいだろう。一方「を」は原辞であって、これ単独では詞になりえない(束縛形式にあたる)。詞である「桜」のような名詞とともにさらに大きな詞を構成して断句の要素となる。
詞は断句を構成する要素であるが、詞が集まれば必ず断句となるわけではないことは経験上知られていることであろう。では松下の理論では断句を成立させる要件はどのようなものであろうか。詞の間に緊密な関係を持ち、そしてそのような複合体が他のものに従属していない場合、断句となり得る。しかしこれだけではなり得るだけで断句とはいえない。断句となる為には、要件を備えている複合体が「統覚」という統一性を帯びて断句となる。
構造概念は次のように洗練された:
- 補充
- 修飾
現代的に見れば広く受け入れられている区別であるが、それまでは「連用」「連体」という概念のもとでいっしょくたにされていた。
また、松下は主題を持つ文と持たない文の違いについても注目し、次のような区別を立てた:
- 題目態
- 平説態
前者は三上章の「題述文」やアントン・マルティ-黒田成幸のcategorical judgmentに相当し、後者は三上の「無題文」、マルティ-黒田のthetic judgmentに相当する。主題優勢言語としての日本語の特質を研究課題として捉えた点は先駆的と言えよう。また、複主語構文における「大主語」についても考察している。
松下の理論は『改撰標準日本文法』、『標準日本口語法』などで知ることができる。