特例有限会社
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特例有限会社(とくれいゆうげんがいしゃ)とは、2006年5月1日の会社法施行以前に有限会社であった会社であって、同法施行後、商号の中に「有限会社」の文字を用いなければならない株式会社のことである。
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[編集] 概説
特例有限会社は、通常の株式会社を規律する会社法に加えて、特例として「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(「整備法」)第2条から第46条までの規定の適用を受ける。これにより、従前の有限会社に類似した制度の適用を一定限度で引き続き受ける。なお、有限会社法の廃止により有限会社制度は廃止され、また、新たに特例有限会社を設立することもできない。
会社法施行前に設立された有限会社は、会社法施行後は、当然に株式会社として扱われる。社員総会は株主総会、社員は株主、持分は株式、出資1口は1株とみなされる。しかし、役員任期に関する法定の制限はなく、また決算の公告義務もないなど、有限会社法で認められたメリットが原則としてそのまま生かされる。
特例有限会社は、定款変更をして、特例有限会社の解散登記と株式会社の設立登記を経ることで特例有限会社ではない通常の株式会社となる。この場合は債権者保護手続は不要である。以後、商号中に株式会社という文字を用いることとされ、役員の任期に関して法定の制限が及び、決算の公告義務も生じる。上記整備法の中では、旧有限会社であった株式会社が名宛人となっている経過規定などが引き続き適用される。
[編集] 旧有限会社制度からのおもな変更点
- 「社員の総数は50人以内」という員数制限が撤廃された。
- 定款に公告に関する事項が記載事項となった。(施行日に公告に関する記載がない定款は「官報によって公告する」という記載があるものとみなされる)
- 定款に資本の総額、社員の住所、氏名、各社員それぞれの出資口数、出資一口あたりの金額を記載しないことになった。(施行日にこれらの記載がある定款は、これらの記載がないこととみなされる)
- 上記に伴い、発行可能株式数が定款記載事項となり、増資時に発行する株式数が発行可能株式数を上回らない場合、定款変更が不必要になった。(会社法施行日の有限会社は、資本金の額と出資一口あたりの金額を割った数が、株式数が発行可能株式数と発行済み株式数とみなされ、その発行可能株式数が定款に記載されているものみなされている。)
- 社債、新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを含む)を発行できるようになった。
- 新株発行の際に、払込価格または現物出資価額の半分までを資本金に組み入れず、代わりに資本準備金に組み込むことができるようになった。また、授権資本制度が採用されるため、特例有限会社への移行後に行われる新株発行においては、そのたびごとに必要であった定款変更を要しなくなる場合もありうるようになった。
- 利益処分案または損失処理案は会社の計算書類から外れ、代わりに「株主資本等変動計算書」ならびに「個別注記表」の作成が義務付けられた。
- 会社再建のために、会社更生法の適用を受けることができるようになった。
- 特例有限会社が存続する吸収合併(特例有限会社どうしの吸収合併を含む)、および特例有限会社を事業承継会社とする会社吸収分割はできなくなった(会社法施行以前にこれらの承認決議を受けたものでも、施行時に実際に合併または分割されていない場合は、同法施行に伴ってその決議は効力が失われた)。これ以外の合併・分割は、特例有限会社を新たに設立するものでない限り全て可能。
など
[編集] 通常の株式会社制度とのおもな相違点
- 通常の株式会社への移行手続をするまでは、商号の中に「株式会社」という文字を含めてはならず、代わりに「有限会社」という文字を含めることが義務付けられている。
- 取締役会・監査役会・会計監査人・会計参与・委員会および執行役が法定機関として認められていない。その結果として、例えば法律上「取締役会設置会社」であることが要求されている業種の会社(銀行や証券会社など)の事業を営んではならない。
- 株主総会の特別決議要件が通常の株式会社よりも厳格となっている。
- 企業再編の手段として、株式交換や株式移転の方法を用いることができない。
など
[編集] 株式会社・持分会社への移行
- 商号変更による通常の株式会社への移行
- 整備法45,46条によると、特例有限会社は、定款を変更してその商号中に「株式会社」という文字を用いる商号に変更することが出来る。そのときは、定款変更の株主総会決議→商号変更後の株式会社の設立の登記及び特例有限会社の解散登記、のプロセスを一定期間内に行うことになる。
- 持分会社化
- 株式会社から持分会社への組織変更の手続を践むことになる(会社法743条以下)。その為、株主全員の同意・債権者保護手続等が必要となる(776条)。
[編集] メリット
- 取締役の任期制限がない(株式会社は最大10年)。
- 12年以上、特例有限会社に関する変更の登記がなくても、休眠会社のみなし解散規定は適用されない。
- ⇔ 株式会社は役員改選により登記が義務付けられ、10年2週間に渡って登記を怠れば違法。
- 決算公告が義務付けられない。
- ⇔ 株式会社は決算公告が義務付けられる(有価証券報告書提出会社は適用除外)。
- 会計監査の義務がない。
- ⇔ 大規模な株式会社においては会計監査が義務付けられる。
- 監査役を設置しても業務監査は行われず、会計監査のみとなり、会社規模を問わずコンプライアンス体制構築義務は免除。
- 米国税法上、特例有限会社は米国のLLCと同等の会社形態と定められ、パススルー課税対象となる。
- 法的効果でないがビジネスにおける事実上の効果として、「有限会社」を名乗ることは会社法施行前から存続する歴史ある会社であるとの認識を外部に与える。
[編集] デメリット
- 会社規模の大小にかかわらず、会社の実情に合わせた柔軟な機関の設計はできない(取締役会・監査役会・会計監査人・委員会・会計参与は設置できない)。
- 株式の譲渡制限を解除する「公開会社」となることは許されない。
- ⇒ 株主間の株式の譲渡につき会社の承認を要する旨の規定を定款で定めることも許されない。
- 株主総会の特別決議を要する事項については、賛成決議の要件が加重されている。
- ⇒ 結果として、定款変更や合併などの決議は、通常の株式会社と比較してやや困難となる。
- 特例有限会社同士、または特例有限会社を存続会社および事業承継会社とする吸収合併および吸収分割ができない。
- 特例有限会社のままでは株式交換や株式移転もできない。
- ⇒ 複数の事業会社を統括する会社の設立には不向き。