線形応答理論
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線形応答理論(Linear response theory、線形応答理論)は、熱平衡状態にある系に、磁場や電場などの外場が加わった時、その外場による系の状態の変化(応答)を扱う理論である。その形成には久保亮五、冨田和久、中野藤生、中嶋貞雄ら日本人研究者が大きく貢献しており、特に久保亮五は代表者として彼らの仕事をまとめたことで有名になった(一例:[1])。
ある系が時間tについてで熱平衡状態であるとする。この時点で系に外場は印加されていない。時間tに依存する外場H'(t)を考え、これが最初の時点()から十分時間が経った段階で系に働くとして、その時の当該する系全体のハミルトニアンは、
となる。H0は外場のない時の系のハミルトニアンで、これは時間に依存しないとする。外場H'(t)は、
と表現できるとする。ここで、Aは時間を含まない演算子で、系におけるある物理量を表す。F(t)はこの演算子を通じて系に作用する外場(の大きさ)であり、これは演算子ではないとする。ここで、
とする。ここで、系全体を記述する密度行列(統計演算子)を導入し、これをとするとHtotalの式に対応して系全体の密度行列は、
と表される。これに関してのフォン・ノイマンの式は、
である。で、hはプランク定数、上式右辺の括弧は、交換関係を表している。ここで外場に対応する密度行列がであり、これは、
である。この式で外場に関係するH'(t)、は、それぞれH0、に対し十分に小さいものと考え、2次の項を無視すると、
という結果を得る。次に、を、
と表現し直すと、
となる。ここでは、
である。よって、
となり、外場H'(t)の1次まで考えると、
を得る。ここで、系の時間に依らないある物理量Bを考え、これに対してを用いて統計的な平均を取る。平均(この場合、時間平均)は、
となる(Trはトレース:対角和をとることを意味する)。ここで、上式最右辺の第一項のTr内は、時間に依存しないのでその平均をゼロとみなす。従って問題となるのは第二項の部分で、H'(t) = - A F(t)及び、Tr内の演算は交換可能で、かつ演算子も循環的に演算順序を変えることができることから、Tr及びBを積分内に移動し、B、の順にこれらを先頭に移動すると、
となる。そしてBを
と表現し直し、を前に置くと、
と変形できる。以上で、F(t')は先の定義により単なる大きさを表す量なのでどこにでも置くことができる。
次に応答関数なるものを、
と定義すると、は、
と表せる。これらは外場H'(t) = - A F(t)に対するBの応答となっていて、1次の項(線形な部分)のみを考えることから、この理論を線形応答理論と言う。また、応答関数の式及び、上の最後の式をGreen-Kubo公式と言う。線形応答理論を使って、磁場や電場に対する、磁化率や電気伝導などの応答を扱うことができる。結晶格子内での格子のずれ(変位)を外場として、線形応答を使って変位に対する応答としてのフォノンの振動数や状態密度などを求めることができる(→DFPT法)。
[編集] 参考文献
R. Kubo, J. Phys. Soc. Jpn., 12, (1957) 570.