進化経済学
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進化経済学 とは、比較的新しい経済学上の方法論で、生物学の考え方に基づいて定式化される。進化経済学の特徴として、経済主体間の相互依存性や競争、経済成長、資源の制約などが強調される。
伝統的な経済理論は主に物理学の考え方に基づいて定式化されており、労働力や均衡、弾力性、貨幣の流通速度などの経済用語が、物理学上の概念から名付けられているのも偶然ではない。伝統的経済理論では、まず希少性の定義から始まり、続いて「合理的な経済主体」の存在が仮定される。ここでいう「合理性」とは、経済主体が自らの効用(厚生)を最大化するという意味である。すべての経済主体の意思決定に必要とされる情報はすべて共有され(完全情報)、経済主体の選好関係は所与のもので、他の経済主体によって影響されないと仮定される。これらの前提条件による「合理的選択」は、解析学的手法、とりわけ微分法に置き換えることができる。
それに対して、進化経済学は進化論の考え方から派生しており、各経済主体や彼らの意思決定の目的は固定されたものではない。
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[編集] 進化経済学の誕生
[編集] マルクスとダーウィン
19世紀の中頃、カール・マルクスは、「人間の本質」が不変ではなく、また社会システムの性質を決める決定要因でもないという概念を導入することで、彼の歴史的展開の段階の図式を始めた。逆に彼は、人間の行動は、それが起こった社会システムおよび経済のシステムの一つの機能であるという原則を打ち立てた。
ほぼ同じ頃チャールズ・ダーウィンは、小さくランダムな変化が時間と共に蓄積していき、経済的な力が強く求められる状況下ではまったく新しい形質の発現に至る大規模な変化(種分化)になるというプロセスを解釈するための一般的枠組みを開発した。
[編集] 実用主義・心理学・人類学
この直後に、アメリカの実用主義の哲学者(ウィリアム・ジェームズ、チャールズ・サンダース・ピアス、ジョン・デューイ)の研究と2つの新しい学問(心理学と人類学)が創立する。 それら両方は、ますますすべての系統的な観察者にとって明らかになってきていたところの(個人および集団の)行動パターンの多種多様さを説明する枠組みをカタログ化して発展させることを目指していた。ここに至って、本質的な経済の問題の分析のためのより近代的な枠組みが開発されるのはほとんど必然であった。
[編集] ソースティン・ヴェブレン
ソースティン・ヴェブレンは知的動乱のこの時代のさ中で、そしてひとりの若い学者が次の世紀とそれ以降に新たに造り出された社会科学のスタイルと物質を形づくることになる種々の活動の主要人物の何人かと直接接触する中で、彼のキャリアを始めた。
ヴェブレンは彼のアプローチにおいて文化的なバリエーションを考慮する必要を知った。すなわち、普遍的な「人間の本質」では、人類学という新しい科学によって例外ではなく規則であることを示したところの、規範と行動の多種多様さを説明することができなかった。彼の非凡な分析的な論文は「儀礼 / 実用の二分」として知られるようになったものであった。そこでは、ヴェブレンはすべての文化が物質ベースであり「生命過程(life process)」を支えるための道具と技能に依存しているのを知った。一方、同時に、すべての文化がグループ生活の「実用的」(「技術的」と言い替えてもよい)観点からの必要性とは正反対な、ある階層構造(「差別的な区別」)を持つように思われた。この「儀礼」は過去と関係があって、そして部族の伝説に一致しており、そして伝説を支えた。その一方で「実用的」は未来の結果をコントロールする能力によって価値を判断するための技術的な必要性を志向していた。
「ヴェブレン式二分」は、ジョン・デューイによる「価値の実用性理論」の専門的な変形であった(デューイは、ヴェブレンがシカゴ大学で手短かに接触したはずであった)。
ヴェブレンによる最も重要な仕事は彼の最も有名な仕事(『有閑階級の理論』および『営利企業体の理論』)を含むが、それに限定されない。しかし、彼の専攻論文『帝制ドイツと産業革命』と『経済学が進化の科学ではない理由』という題の随筆は、後の世代の社会科学者による研究の協議事項の形成に影響を与えた。
『有閑階級の理論』および『営利企業体の理論』はそれぞれ消費と生産についての新古典主義の境界理論に代わる解釈を構成する。これら二つは明らかに行動の文化的パターンへ「ヴェブレン式二分」を応用することに基づいていて、またそれゆえ暗黙的しかし必然的に、批判的な姿勢を含んでいる。すなわち、この二分法がその本質において価値評価(valuational)の原則であるということを理解することなくヴェブレンの著作を理解することは不可能だ。
活動についての儀式的パターンはどんな過去にでも拘束されるわけではなく、むしろ、現在の報酬の構造と力を裏打ちする、利点と偏見の特有のセットを作っている過去に拘束されているのである。有用な判断は、完全に別の基準に従って利益を作り出す、それゆえ本来的に破壊的である。分析のこのラインは1920年代からテキサス大学のクラレンス・E・エアーズによって、いっそう完全かつ明確に発展した。
[編集] ジョセフ・シュンペーター
20世紀の前半に生きていたジョセフ・シュンペーターは『経済発展の理論』の著者であった。この本で彼は、当時非常に急進的だった進化の見地をとった。彼の理論は、通常のマクロ経済の均衡の仮定に基礎を置かれた。均衡とは「経済現象の標準モード」のようなものである。
この均衡は新発明を導入しようとする起業家によって破壊され続けている。新発明の導入が成功することにより、通常の経済生活の流れが乱される。なぜならそれはすでに現存の技術と生産手段のいくらかから、それが経済の中で持っていた地位を奪うためである。
[編集] 関連項目
- 自然選択
- 物理経済学