重騎兵
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重騎兵(じゅうきへい, heavy cavalry, cuirassier)とは、鎧で重武装した騎兵である。
[編集] 歴史
古代の戦場の主役は重装歩兵であった。騎兵も重要な存在ではあったが、偵察や陽動作戦といった機動力(移動の速さ)を生かした戦術に用いられることが多かった。これは、当時のウマは体格が小さく、馬具も未発達であり、重い鎧をまとって騎乗することが難しかったためである。
中世にさしかかる時期になると、ウマの品種改良が進み大型化したこと、また鐙が発明されたことによって、馬上での戦いがやりやすくなった。これによって、機動力よりも突撃力を重視した重騎兵が戦場に出現した。ビザンツ帝国では馬までもが甲冑を帯びたカタフラクトが軍の主力となった。
中世ヨーロッパでは、特にフランスの騎士は非常に重い馬鎧を馬に着せたため騎兵同士の戦いでは頑強な防御力を誇った。しかし、その分機動力が極端に小さくなってしまった。アジャンクールの戦いではこれが裏目に出て射程のある長弓で次々と射られてしまったと言われる。
近代に入ると、火器の発達により騎士階級は没落したが、グスタフ・アドルフやフリードリヒ大王らによって、歩兵、砲兵との組み合わせる近代的な騎兵の運用方法が工夫された。この時代の重騎兵は胸甲(キュイラス)を身にまとっていたことから胸甲騎兵(キュイラシェ)と呼ばれ、崩れかけた敵陣を突撃によって粉砕するといった役割を負った。
しかし、ライフルの普及以降は背の高い騎兵は格好の狙撃の的となり、再び攻撃力としての役割は失われ、任務は機動力を利用しての偵察などに限られるようになった。さらに戦車の導入が進むと完全に重騎兵は消滅した。
騎兵の名称は、かつて重騎兵が担っていた機動力およびその高速力を生かした敵中への突破を任務とする戦車部隊、機甲部隊や空中機動部隊の伝統名称として、現在でも一部の部隊名などに用いられている。