UCIプロツアー
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UCIプロツアー(UCI ProTour:「UCIプロツール」とも)とは、国際自転車競技連合 (UCI : Union Cycliste internationale) が主催する自転車のロードレースシリーズ。2005年に従前のUCIワールドカップを一新し、UCIが新たな枠組みで各レースをシリーズ化したもの。
このUCIプロツアーは、近年特にヨーロッパでは自転車ロードレースの人気低下が顕著になっており、また「自転車ロードレース=ツール・ド・フランス」といったような一極化をどうにか食い止める為、UCIが旧UCIワールドカップにて挙がっていた諸問題(後述)を解決し自転車ロードレースの人気を回復させるための改革として導入された。
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[編集] 概要
UCIは20のプロツアーライセンス(基本的に4年間有効)を発行し、各チームはこのライセンスを買い取るという形をとる。このライセンス発行にはチームにドーピング対策、チームの経済力等厳しい審査を課す。実際に2005年にはフォナック・ヒアリングシステムチームは多くのドーピング違反選手を出し改善策を示すも、当初のライセンス発行は認められず19チームでの施行となる。チームはライセンス料を払うことにより、UCIプロツアーに組み込まれたすべてのレースに出場しなければならず、またその際に「チームの上位5選手のうち少なくとも2人を出場させる」ことが求められた。
一方で、プロツアー制度の施行直後はツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリアなど、旧UCIワールドカップには含まれなかった世界3大ツール(グランツール)などもツアーに組み込まれたことから、プロツアーへの参加を認められたチームは、それら有力レースへの出場権が自動的に確保できる事となった。しかし2007年よりグランツールへの出場権は各レースの主催者が独自に付与することとなったため、この恩恵は薄れている(詳細は後述)。
UCIは各レース種別ごとに獲得ポイントを定め、各年度の1月1日から12月31日の累計獲得ポイントからリーダーを決める事となる。各レース時点でのポイントリーダーは白色のリーダージャージを着用する事が許される。更にプロツアーの下に大陸ごとに五つのコンチネンタルサーキット(UCIアフリカツアー、UCIアメリカツアー、UCIアジアツアー、UCIヨーロッパツアー、UCIオセアニアツアー)を創設している。
プロツアーに組み込まれているレースは、プロツアーチーム20チームの他、主にプロフェッショナルコンチネンタルチームを中心とした数チーム(実質は地元チームが中心)だけがワイルドカードとして出場できる。このためプロツアーチーム以外のチームにとっては、逆に各レースへの参加の門は狭くなってしまっている。コンチネンタルサーキットに組み込まれているレースは、更にカテゴリーをHC、クラス1、クラス2と細分化し、獲得ポイント等をレースごとに変えている。これらに基づいたポイントにて個人・チーム別・国別ランキングを毎月25日(休日である場合には翌日)に発表している。
[編集] カテゴリー
- UCIプロツアーチーム
- プロツアー全レースに出場義務。人数制限はあるが、コンチネンタルサーキットのHC、クラス1のレースにも出場可。ただし出てもポイントはつかない。
- プロフェッショナルコンチネンタルチーム
- コンチネンタルサーキットを主戦場とする。UCIに1年ごとに認定される必要がある。
- コンチネンタルサーキット→HC、クラス1、クラス2(プロツアーへは招待で出場可能。但しポイントはつかず。ヨーロッパのクラス2レースには主催国チームでないと出場不可。)
- コンチネンタルチーム
- プロとノンプロのミックスとなる。チームを主に構成する選手の出身国の連盟から認可を受ける。
- コンチネンタルサーキット→HC、クラス1、クラス2(但し、ヨーロッパのHCレースには主催国チームでないと出場不可。)
- ナショナルチーム
- コンチネンタルサーキット→クラス1、2
- リージョナル/クラブチーム
- コンチネンタルサーキット→クラス2
[編集] 参加チーム
[編集] 2007年現在の参加チーム
- Ag2r Prevoyance
- Astana Team(旧Liberty Seguros-Würth Team)
- Bouygues Telecom
- Caisse d'Epargne
- Cofidis, le Credit Par Telephone
- Credit Agricole
- Team Discovery Channel
- Euskaltel - Euskadi
- Française des Jeux
- Gerolsteiner
- Lampre-Fondital
- Liquigas
- Predictor-Lotto(旧Davitamon-Lotto)
- Quick Step - Innergetic
- Rabobank
- Saunier Duval - Prodir
- Team CSC
- Team Milram(旧Domina Vacanze)
- T-Mobile Team(ドイツテレコムの携帯電話部門)
- Unibet.com
[編集] 過去の参加チーム
- Fassa Bortolo(2005年)
- Phonak Hearing Systems(2006年)
[編集] 諸問題
旧UCIワールドカップの様々な問題をはじめどれだけ問題点が改善され、また新たにどれだけ問題が出てきたかについては様々な議論があるが、ここでいくつか挙げておく。
[編集] ドーピング問題
ドーピング問題については、自転車ロードレース界に常につきまとう問題とされてきた。これを考慮しUCIプロツアー制度導入にあたり、はじめてドーピングに関する倫理規定が導入れた。罰則に関しても2年間の停職処分と更に2年間UCIプロツアーの参加禁止が規定され、ドーピングが判明しこれが適用されると、実質的に選手生命の終わりを意味するものである。今後、チームはもしドーピング問題等のスキャンダルがあればライセンス発行問題とも関わってくることから、チーム内での取締りや選手のマネジメントにも効果を発揮することが期待される。
[編集] 若手育成
当初このUCIプロツアー導入に当たってはチームが各レースへの出場を義務付けられ、即戦力の選手獲得に走り若手の育成がおろそかになるという指摘もあった。チーム方針として即戦力で戦うチームもある一方、若手育成で選手を育てる方針であるチームも確かにある。プロツアーチームは確かにプロツアーに組み込まれたレースにはすべて出場しなければならないが、一部のコンチネンタルサーキットのレースにも出場する事が認められており、各チームは若手をこのコンチネンタルサーキットに出場させ若手の育成を図っている。
[編集] メディア露出機会は増加したのか
ロードレース振興のためには、メディアに露出する機会を増やすことが必要であった。またツール・ド・フランスのみを狙う有名選手をいかに多くの大会に出場させ、メディアへの露出を上げられるかという課題があった。当初各チームのトップの選手のプロツアーでの最低出場回数を設定しようとしたが、結局各レースでチームのトップ5の内2人を出場させる事となってしまった。どのスポーツの世界でもそうであるが、観客を呼び込めるスター選手というのはほんの一握りであり、この出場規定によりロードレースのメディアへの露出が増したかということには疑問符がつく。
[編集] 地方レースの衰退
このプロツアー制度導入にあたって地方(特にフランス・スペイン)のカップレース等は大きな打撃を受けている。以前はトップ選手もライフワーク的意味合いも兼ねて地元のレースに出場する事も多くあったが、プロツアーでより多くのレースへの出場が義務付けられることにより、このような地方レースへの参加が出来なくなってしまった。有名選手が出ないレースはやはりスポンサーからの資金調達が難しくなり、プロツアーに組み込まれなかった伝統的なレースが休止に追い込まれている場合もある。
[編集] 3大ツールとの主導権争い
UCIプロツアーのスタートに伴い浮上した大きな問題の一つが、ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャのいわゆる「三大ツール」の主催者とUCIとの主導権争いである。
プロツアー制度の導入に伴い、三大ツールの主催者は従来各主催者が独自の基準で行っていた出場チーム選考の権限を、事実上UCIに奪われることとなってしまった。従来各主催者はイベントの盛り上げのため、たとえ格下であっても自国のチームや自国の人気選手が所属するチームを優先的にワイルドカード等で拾い上げるといったことを行ってきたが、プロツアーでは出場チームがほとんど同じようなチームになってしまうため、逆にイベントの盛り上がりが欠ける結果も一部では生まれている。
このため三大ツールの主催者はたびたびプロツアーからの離脱をほのめかす行動を取り、実際2005年と2006年12月には、ASO(フランス)・RCSスポルト(イタリア)・ウニプブリク(スペイン)は、三社が主催する3大ツールを含む11レースをプロツアーから離脱させることを提案した。
また2006年10月には、ジロ・ディ・ロンバルディアを主催するRCSスポルトが、UCIプロツアー制度に対する反発から、プロツアーの最終戦である同レースの優勝者の表彰式の後に本来行うべきプロツアー総合優勝者の表彰式を実施しないという異常事態が起こった。ただこれに対してはプロツアーに参加するチームの多くから反対の声も挙がっており、プロツアーに参加する全チームがレースの表彰式を完全ボイコットすることで、三大ツールの主催者側の態度に抗議の意思を表明した。
結局2007年3月にUCIとASOら三社の間で交渉が持たれた結果、2007年シーズンに関しては三社の主催レースをプロツアーに組み込むことで暫定的な合意が成立。ただ三社主催レースに関する出場チームについて、各レースの主催者が独自に選考を行う方針は維持されたため、2007年より新たにプロツアーに加わったUnibetに関してはグランツールへの出場権が与えられない見通しとなっている。
[編集] スケジュール
[編集] 2006年
- 3月5日~3月12日 パリ~ニース フランス
- 3月8日~3月14日 ティレーノ~アドリアティコ イタリア
- 3月18日 ミラノ~サンレモ イタリア
- 4月2日 ロンド・ファン・フラーンデレン(ツール・ド・フランドル) ベルギー
- 4月3日~4月8日 バスク一周 スペイン
- 4月5日 ヘント~ウェヴェルヘム ベルギー
- 4月9日 パリ~ルーベ フランス
- 4月16日 アムステルゴールドレース オランダ
- 4月19日 フレーシュ・ワロンヌ ベルギー
- 4月23日 リエージュ~バストーニュ~リエージュ ベルギー
- 4月25日~4月30日 ツール・ド・ロマンディ スイス
- 5月6日~5月28日 ジロ・デ・イタリア イタリア
- 5月15日~5月21日 カタルーニャ一周 スペイン
- 6月4日~6月11日 ドーフィネ・リベレ フランス
- 6月10日~6月18日 ツール・ド・スイス スイス
- 6月18日 チームタイムトライアル・アイントホーフェン オランダ
- 7月1日~7月23日 ツール・ド・フランス フランス
- 7月30日 ヴァッテンフォール・サイクラシックス(HEWサイクラシックス) ドイツ
- 8月1日~8月9日 ドイツ・ツアー ドイツ
- 8月12日 クラシカ・サンセバスティアン スペイン
- 8月16日~8月23日 エネコ・ツアー オランダ・ベルギー
- 8月26日~9月17日 ブエルタ・ア・エスパーニャ スペイン
- 8月27日 GP西フランス・プルエー フランス
- 9月4日~9月10日 ツール・ド・ポローニュ ポーランド
- 10月1日 チューリッヒ選手権 スイス
- 10月8日 パリ~ツール フランス
- 10月14日 ジロ・ディ・ロンバルディア イタリア
[編集] 外部リンク
- UCI ProTour(英語)