アイソレーション・タンク
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アイソレーション・タンク(英:Isolation tank)とは光・音を遮蔽した部屋であり、中に液体が入っている。液体は人間が浮かぶ程度の比重を持っており、通常濃度の高い硫酸マグネシウム溶液を用いる。また液体は温度を感じないように人の皮膚の温度と同じにしてある。 この部屋に入れられ液体に浮かべられた人間は視覚・聴覚・温覚を完全に、重力から来る感覚からある程度遮蔽される。 この部屋は感覚遮断(感覚遮蔽)の効果をみるためにジョン・C・リリー(John C.Lilly)が1954年に考案し、現在では心理療法や代替医療として使われている。
[編集] 歴史
リリーは米国精神保健研究所(NIMH)にて精神分析医の訓練をしてる間に肉体から感覚を剥奪する実験を始めた。当時神経生理学界では、脳の活動に何が必要でどこからエネルギーを得ているのかが長く論題となっていた。一つの仮定として、脳はエネルギーを外部の環境から得ていないという主張があり、もし脳への刺激が無くなったら脳は寝てしまうであろうと言われていた。リリーはこの主張の真偽を実験で明らかにするため、被験者を外部の刺激から完全に遮断する環境をつくりあげることにした。こうしてリリーは意識の起源と脳への関係の研究を始めた。
初期のタンクでは、人は呼吸をするためのマスクをかぶせられ水中に沈められた。だがその後作られたタンクでは水に硫酸マグネシウム(エプソム塩)が添加され、人は仰向きに浮かんで呼吸できるように変更された。後者のタンクより初期のタンクの方が感覚を遮蔽するという点で優秀であるようにも思えるが、浮かんでいても耳は水中にあり音からは遮断されており、液体と空気の温度は人の皮膚からの熱の流出量が同じになるように設定されているので手を身体の横に静かに拡げている限り気液の境界は意識されない。臭いも水から塩素臭を取り除いていればかなり減らすことができる。よって感覚遮断という機能は同等であり、より簡単な後者が現在でも使われている。
[編集] 治療としての使用
心理療法では通常一時間の使用がほとんどである。最初の四十分では身体のあちこちがムズムズするが、最後の二十分にアルファ波やベータ波からシータ波に脳波が移行することがある。シータ波は就寝前や起床前に見られる脳波であるが、このタンクの中では意識が飛ぶことなくシータ波が数分間観測される。この状態を瞑想に利用する人もいる。