アエネイス
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『アエネーイス』(Aeneis, en: Aeneid) は古代ローマの詩人ウェルギリウス作のトロイア滅亡後の英雄アエネアス（Aeneas）(ギリシア語ではアイネイアス（Aineiās））の遍歴を描いた叙事詩である。アエネーイスは「アエネアスの物語」の意。
ウェルギリウスの最後にして最大の作品であり、ラテン文学の最高傑作とされる。この作品の完成にウェルギリウスは10年を費やした。『アエネーイス』以後に書かれたラテン文学で、この作品を意識していないものはない。
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[編集] 主な登場人物
- アエネアス (Aeneas)
- 主人公であり、『イリアス』に登場するトロイア勢の英雄。トロイア陥落後、放浪の末イタリアにたどり着く。
- アスカニウス (Ascanius)
- アエネアスの息子。冒頭では幼児として描写されるが、作中にて優れた戦士へと成長する。彼のラテン名はユールス (Julus) とされているが、これは後のユリウス一族との関係を仄めかしている。
- ディド (Dido)
- カルタゴの女王。流れ者であるアエネアスとの情熱的な恋に落ちるが、アエネアスとの別れを嘆き、その身を薪の火に投じて壮絶な自死を遂げる。その際、後のポエニ戦争によりローマが苦しめられることを示唆する恨み言を遺す。
- ラティヌス (Latinus)
- イタリアの一地方の王。有能な王として描写される。
- ラウィニア (Lavinia)
- ラティヌスの娘であり、トゥルヌスと婚約していた。しかしラティヌスが実力を認めたアエネアスと彼女を結婚させようとしたことが、トゥルヌスがアエネアスと戦うきっかけとなる。
- トゥルヌス (Turnus)
- イタリアの一地方の王であり、そこに辿りついたアエネアスと対決することとなる。『アエネイス』の最終場面は彼とアエネイスの一騎打ちであり、まさにその勝負がつかんとするところで現存する作品は終わっている。
[編集] 内容
全12巻からなり、イリオスの王子でウェヌスの息子であるアエネアスが、トロイア陥落後、カルタゴの女王ディドとの悲恋を経てイタリアにたどり着き、現地王の娘との婚約とそれに反対する勢力との戦いを描く。詩の中でしばしばその建設が予言されるアルバ・ロンガはローマの創立者ロムルスとレムスの出身地であり、当時ローマの礎と見なされていた。たんに神話的英雄を詠うにとどまらず、当時内乱を終結させたローマの実力者アウグストゥスの治世をアエネアスに仮託し、褒め称える構造をもつ。アウグストゥスの属したユリウス氏族はアエネアスの子孫を称しており、アエネアスはアウグストゥスを連想させた。作中に登場するアエネアスの息子・アスカーニウスはまたの名をユールス (Julus) といい、彼のが後のユリウス (Julius) 氏族へと繋がることが示されている。
とくにディドと別れたのち冥界で今後進むべき道について受ける託宣には、主人公アエネアスにとっては未来、ウェルギリウスにとっては同時代である、アウグストゥスの治めるローマの栄光が予言として歌い上げられる。
構成はホメロスの『イリアス』と『オデュッセイア』に範を取っている。すなわち、前半部分(1-6巻)の、アエネアスがイタリアにたどり着くまでに放浪を続ける箇所が『オデュッセイア』的であり、後半部分（7-12巻）の、イタリアにたどり着いたアエネアスが、土着の勢力と戦う箇所が『イリアス』的であるとされる。前半部についてはアエネアスにオデュッセウスが投影されていることが明らかであるが、後半部については『イリアス』の様々な英雄の属性が投影されている。例えば婚約が決まっていた娘ラウィニアと結婚する異国人の立場はパリスを連想させ、逆に一騎打ちから逃げる敵の大将トゥルヌスを追うさまはメネラオスを連想させる。また一騎打ちの決着後参戦したパッラスの剣帯を見て、友を殺された怒りからトゥルヌスに報復するさまはアキレウスを連想させる。もちろん、全編に渡って、ホメロスの影響は大きく、以上の『オデュッセイア』『イリアス』の区分はあくまで作品全体を巨視的に見た場合に妥当するものである。
ベルリオーズのオペラ「トロイ人」(Les Troyens) はこの作品を題材としている。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 『ギリシャ・ローマの文学＝韻文の系譜＝』（第二版）逸身喜一郎著
