アセトアルデヒド脱水素酵素
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アセトアルデヒド脱水素酵素(アセトアルデヒドだっすいそこうそ、ALDH)は、摂取したエチルアルコールの代謝によって生じるアセトアルデヒドを、酢酸に分解する代謝酵素。アルデヒド脱水素酵素の一種。
飲酒により体内に入ったエチルアルコールは、胃や小腸から吸収され肝臓内のアルコール脱水素酵素によりアセトアルデヒドへと分解される(式1)。アセトアルデヒド脱水素酵素は肝臓内においてアセトアルデヒドを酢酸に分解する酵素である(式2)。
- CH3CH2OH + NAD+ → CH3CHO + NADH + H+ … (1)
-
- NAD+ : ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの酸化型
- NADH : ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの還元型
- CH3CHO + NAD+ CoA → + acetyl-CoA + NADH + H+ … (2)
こののち、酢酸はさらに二酸化炭素と水に分解され、最終的に体外へと排出される。
[編集] 遺伝子多型
アセトアルデヒド脱水素酵素は、517個のアミノ酸から構成されるたんぱく質である。このうち487番目のアミノ酸を決める塩基配列の違いにより、3つの遺伝子多型に分かれる。グアニンを2つ持っているGGタイプと、グアニンの1つがアデニンに変化したAGタイプ、2つともアデニンになったAAタイプである。GGタイプのアセトアルデヒド脱水素酵素に対し、AGタイプは約1/16の代謝能力しかなく、AAタイプにいたっては代謝能力を失っている。
アセトアルデヒドは毒性が強く、悪酔い・二日酔いの原因となる。つまりアセトアルデヒド脱水素酵素の活性が弱いということは、毒性の強いアセトアルデヒドが体内で分解され難く、体内に長く留まるということであり、AGタイプ・AAタイプは、アセトアルデヒドの毒性の影響を受けやすい体質である。そのため、一般的にこのタイプの人は、お酒に弱い人、もしくはお酒を飲めない人と言われている。
遺伝子多型は、生まれつきの体質であるが、AGタイプ(お酒に弱いタイプ)・AAタイプ(お酒が飲めないタイプ)はモンゴロイドにそれぞれ約45%、約5%のみ認められ、白人・黒人は全てGGタイプ(お酒に強いタイプ)である。一般的には、お酒に弱いと言うことは生活(生存)に不利だと思われているが、人類のアフリカ単独起源説に基づけば、モンゴロイドのこの遺伝子の突然変異は、モンゴロイドが白人や黒人から分技してから生じた突然変異であり、それ以降ごく短期間の間にモンゴロイドの約50%にまで広まったことは驚くべきことである。そのことからも、このお酒に弱くなるというアセトアルデヒド脱水素酵素の突然変異は、極めて生存に有利だったのではないかと推察される。
筑波大学の原田勝二らは、ALDHのひとつALDH2を作る遺伝子によって酒の強さが体質的に異なるとされることに注目して、全都道府県の5255人を対象に、酒に強いとされる遺伝子の型NN型を持つ人の割合を調査、順位づけた。
その結果、NN型の人は中部、近畿、北陸で少なく、東西に向かうにつれて増加、九州と東北で多くなる傾向があった。すなわち、秋田県が最多で77%、鹿児島県と岩手県が71%でこれに続き、最小は三重県の40%、次に少ないのは愛知県の41%であった。