アントン・シンドラー
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アントン・フェーリ(ッ)クス・シンドラー(シントラー)(Anton Felix Schindler, 1795年6月13日 モラヴィア・メードル Meed(e)l(オロモウツ郡メドロフ Medlov) - 1864年1月16日 ボッケンハイム Bockenheim)は、モラヴィア出身のドイツの音楽家であり、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの伝記を記したことで知られている。
彼の著作『ベートーヴェンの生涯』は1840年に出版、さらに1860年に増補され、後のベートーヴェン解釈において多大な影響を及ぼした。しかし、後の研究によって、ベートーヴェンとの会話を記したメモが捏造されたものだということが明らかになり、また生前のベートーヴェンとの関係も誇張されているため、現在ではこの伝記の信憑性には疑問がもたれている。
たとえば、現代のベートーヴェン研究家、バリー・クーパーは著書『ベートーヴェン概論』において、「(シントラーの)不正確で虚偽の内容を記す性癖は甚だしく、他に史料が見つからなければ、彼の記したものは一切信頼できない。」とまで述べている。またメイナード・ソロモンは自身の著作において、シントラーの問題点が明らかになる以前では多くの学者はシントラーの記述を根拠にベートーヴェンの解釈を行っていたことを指摘した上で、「(シントラーの伝記から)事実とフィクションを分別するのは容易ではないだろう」と述べている。
ソロモンによる伝記の1998年版では、シントラーの著述を根拠とした解釈を排除することが、初版よりもさらに徹底されている。(もちろん、他にも根拠があるものについては維持されている。)
ベートーヴェン研究家は将来にわたって、シントラーの欺瞞によって生み出された解釈上の誤りを正すために、このような努力を続けていく必要があるだろう。たとえば、ピアノソナタ作品31-2は、しばしば「テンペスト」という副題で呼ばれているが、これはシントラーが「この曲を理解するにはシェイクスピアの『テンペスト』を読めばいいと作曲者が説明した」と述べていることに由来している。しかし、『ベートーヴェン概論』(p. 149)によれば、これが真実であるとは考えられないという。
[編集] 参考文献
- Barry Cooper, gen. ed., The Beethoven Compendium, Ann Arbor, MI: Borders Press, 1991, ISBN 0-681-07558-9.
- Maynard Solomon, Beethoven, 2nd rev. ed., NY: Schirmer, 1998, ISBN 0-8256-7268-6.