ウェスターマーク効果
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ウェスターマーク効果(うぇすたーまーくこうか)とは幼少期から一緒の生活環境で育った相手に対しては、次第に性的興味を持つ事は少なくなるという現象である。これは刷り込みの一種であると考えられている。
[編集] 概説
この説は19世紀にエドワード・ウェスターマークによって提唱された考えである。1891年の彼の著書『人類婚姻史』では、一緒に育った近親者同士は性的関心を失う傾向がある事実が示唆されている。だが、この説は同時代に精神分析学を創始したジークムント・フロイトがエディプス・コンプレックスを唱えたために、その後の人類学者たちからもほとんど無視される結果となった。
だが、この考えはメルフォード・スパイロが1950年代にイスラエルではキブツ(共同保育施設)において皆が幼馴染のような状況にあるが、ある年齢まで一緒に生活していた仲間とは結婚を避ける傾向が見られたと述べたことで復活する。また、ジョゼフ・シェファーは2769組のキブツ出身者の結婚を調査したが、同じキブツの出身者同士の結婚はそのうちわずか13組に過ぎなかった[1]。また、同様の現象は台湾のシンプアという結婚形式にも見られた。貧しい家の娘は裕福な家に身売りされたのであるが、その娘は若かったためにそのうち夫はほとんどその娘に興味を持たなくなってしまったのである。
ただ、メルフォード・スパイロはウェスターマークとは異なる考え方でウェスターマーク効果を見ている。幼馴染が結婚しないのは思春期にその欲望を抑圧しなくてはセックスしか考えられなくなるため、性的嫌悪感でそれを乗り越えようとしているのであるという。事実、キブツ運動に参加した精神科医のカフマンはこういった関係にある人々の間の異性関係が報告されない例はほとんどないと述べる。
[編集] 精神分析との関連
この現象はジークムント・フロイトのエディプス・コンプレックスの概念に対する反証としてよく用いられる。フロイトは、近親相姦タブーを作成するのは社会にとって必要であるからであって、同じ家族の人員が当然相互に近親姦を切望すると主張した。しかし、ウェスターマークは逆を主張した。それらのタブーは自然に継承されたものであって、一人一人の個人的な嫌悪がそのタブーを作り出していると主張した。多くの研究はウェスターマークの観測及び解釈を支持する。オイディプス王も母親と引き離されて育ったため、これは近親姦を煽る最もよい方法であって、この例も反論にはならない。
しかし、まだいくらかの精神分析学者は、フロイトの説に同意する。それらの考えを支持するために使われる1つの考えは、問題の行為をするという願望がなかったならば、そのようなタブーはそもそも必要がないということである。また、フロイトの言っているのは幼児性欲であり性器的結合ではないという意見もある。