ウルカヌス
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ウルカヌス(ウゥルカーヌス、Vulcānus)は、ローマ神話に登場する火の神。ムルキベル (Mulciber) とも呼ばれた。後にギリシア神話の鍛冶神ヘパイストスと同一視される。英語読みのヴァルカン (Vulcan) でよく知られる。
ロムルスあるいはサビニ人の王タティウスが信仰を始めたという。祭日は8月23日のウルカナリア(Vulcānālia)であった。
ウルカヌスの神話はほとんどがヘパイストスのものであり、独自の神話は残っていない。
[編集] 語源
ウルカヌスの語源説は複数があるが、どれも確実なものではない。
一般的に受け入れられているのはヴェーダ語のvárcas「輝き」、アヴェスター語のvarəčah「力、エネルギー」と同じインド・ヨーロッパ祖語に由来するというものである。várcasはウルカヌスと同じ火の神アグニや太陽神スーリヤの持ち物であるとされた。
ほかにはエトルリアの神ウォルカヌスに由来するという説、前ギリシア文明期のクレタ島の神ウェルカノス(Ϝελχανος)に由来するという説もあるが、どちらも意味的・神話学的にウルカヌスと共通点がなく、偶然の一致である可能性が高い。
またオセット人のナルト叙事詩に登場する鍛冶神クルダレゴン(Kurdalægon)の方言形Kurdalæwærgonを分解して得られるwærgonには「狼」という意味があり、そしてウルカヌスと音声上一致するという説もある。しかしこれにしても、ウルカヌスが鍛冶の神であるのはヘパイストスに関連付けられて以降だし、ウルカヌスと狼とは何の関係もない。