エアリー関数
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数学において、エアリー関数 Ai(x) とは 特殊関数の一つである。 イギリスの天文学者ジョージ・ビドル・エアリー(George Biddell Airy)に由来する。 関数 Ai(x) と関数 Bi(x) は、微分方程式 y'' − xy = 0 の解である。 この微分方程式は、以下のグラフに見るように振動から指数関数的振る舞いへと移るような解を持つ二階線型微分方程式の中で最も簡単な微分方程式である。
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[編集] 定義
実数 x に対し、エアリー関数 Ai(x) は次の積分によって定義される。
t → ∞でも、被積分関数が0に収束することはないが、積分自体は収束する。(部分積分を用いると、この積分が収束することが分かる。)
ここで、 y = Ai(x) という関数が、微分方程式 y'' − xy = 0 を満たすことがわかる。 この方程式は二階線形微分方程式なので、2つの線型独立な解を持つ。一つを Ai(x) とし、もう一つの関数 Bi(x) は、下のグラフのように x → −∞としたときに、Ai(x)と振幅が等しくなり、位相が(1/2)πだけずれたような振動をもつ関数として取る。この Bi(x) を エアリー関数 Bi(x) という。
- 単に、 A の次のアルファベット B を用いただけで、 Bi という文字には大した意味はない。
[編集] 性質
Ai(x) と Bi(x) の x = 0 での値、及び、その微分係数は、ガンマ関数を用いて
と書ける。 この時、Ai(x) と Bi(x) のロンスキアンは、1/π となる。
x が正であれば、Ai(x) は正で、0に収束する単調減少関数となる、この時 Bi(x) は正で単調増加関数になる。 x が負であれば Ai(x) と Bi(x) は、0 を境に振動し、x が小さい程、振動は激しく、振幅は小さくなっていく。
これは、エアリー関数の漸近公式からもわかる。
[編集] 漸近公式
x → ∞ としたときの、エアリー関数の漸近的振る舞いは次で与えられる。
逆に x → −∞ であれば、
この公式は漸近展開 を用いることによって得られる。 これらの結果は (Abramowitz and Stegun, 1954) と (Olver, 1974)による。
[編集] 複素変数
次のようにエアリー関数の定義域を、複素平面上に拡げることができる。
積分路は、偏角−(1/3)πの無限遠点から、偏角 (1/3)π の無限遠点までとする。
さらに、複素平面上の微分方程式 y'' − zy = 0 を用いれば Ai(x) と Bi(x) を、複素平面上での 整関数 Ai(z) と Bi(z) に拡張できる。
z2/3 の主値を取り、 z が負の実軸上に無く有界であれば、 Ai(z) に関する漸近公式はそのまま成り立つ。
Bi(z) に関する漸近公式は 適当な正の数 δ を決めて得られる扇形領域 {z∈C : |arg z| < (1/3)π−δ} の点 z に対して成り立つ。
z が扇形領域{z∈C : |arg z| < (2/3)π−δ} にあれば、Ai(−z) と Bi(−z) ともに、漸近公式が成り立つ。
エアリー関数の漸近的振る舞いより、Ai(z) と Bi(z) はともに、負の実軸上に無限個の零点を持つことが分かる。関数 Ai(z) は、複素平面上にこれ以外の零点を持たないが、 Bi(z) は、領域 {z∈C : (1/3)π < |arg z| < (1/2)π} に無限個の零点を持つ。
[編集] 他の特殊関数との関係
偏角が正の時 エアリー関数は 修正ベッセル関数との間に次のような関係がある。
ここで、 I±1/3 と K1/3 は x2y'' + xy' − (x2 + 1 / 9)y = 0の解である。
偏角が負の時 エアリー関数は ベッセル関数との間に次のような関係がある。
ここで、 J±1/3 は x2y'' + xy' + (x2 − 1 / 9)y = 0 の解である。
スカラーの関数は y'' − xy = 1 / πの解である。これらをエアリー関数を用いて表すと
となる。
[編集] 歴史
エアリー関数は、イギリスの天文学者ジョージ・ビドル・エアリーによる光学の研究 (Airy 1838) で用いられた。 Ai(x) という表記はハロルド・ジェフリースによるものである。
[編集] 外部リンク
- MathWorld: Airy functions
- Chapter AI: Airy and related functions in the Digital Library of Mathematical Functions.
[編集] 参考文献
- Abramowitz and Stegun (1954). Handbook of Mathematical Functions with Formulas, Graphs, and Mathematical Tables, Section 10.4. National Bureau of Standards.
- Airy (1838). On the intensity of light in the neighbourhood of a caustic. Transactions of the Cambridge Philosophical Society, 6, 379—402.
- Olver (1974). Asymptotics and Special Functions, Chapter 11. Academic Press, New York.