エドガー・ポーツネル
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エドガー・ポーツネル(1740年5月12日 - )は、1972年1月から1976年4月にかけて『別冊少女コミック』に連載された漫画『ポーの一族』(萩尾望都)の主人公。架空の人物。イギリス貴族エヴァンス伯爵と、うら若き愛人メリーウェザーとの間に生まれた第一子。男性。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
1740年に生誕し、その四年後に妹のメリーベルが生まれる。病弱だったメリーウェザーの死後、エヴァンス伯爵が子供たちを正式に引き取ろうとしたため、本妻の逆鱗に触れ、エドガーは彼女の召使いの手によってメリーベルと共に森の中に捨てられ、スコッティの村の老ハンナに拾われ彼女の館で育てられることになる。しかし優しい老ハンナは、実はバンパネラ(吸血鬼)であった。10歳になったエドガーが、バンパネラの秘密の儀式を目撃してしまったため、20歳になったら彼らの仲間となる事を強要される。愛する妹を事実上人質にとられる形となったエドガーは承諾するが、その4年後、老ハンナは彼女を吸血鬼と疑う村民の手により、杭を心臓に打ち込まれ殺されてしまう。老ハンナは灰となって消滅し、その光景を目撃したスコッティの村民の間に暴動が起こる。館の一族は夜間逃亡を余儀なくされるが、老ハンナの遺志を重んじた大老ポーの血を体内に注がれ、エドガーはバンパネラへと変貌する。ポーの一族であるポーツネル男爵とその妻シーラの養子となったエドガーは、以後永遠に少年の姿のまま生き続ける苦悩と運命を背負うことになった。
人間だった頃のエドガーはごく普通の少年であり、「捨て子」と囃し立てられば立ち向かっていく負けん気の強い性質の持ち主だった。すこぶる妹思いでもあり、メリーベルに注ぐ献身的な愛情は、バンパネラとなってからも彼の内面に根を張り続け、以後200年に渡って繰り広げられる数々の物語を織り成す強靭な縦糸となった。エドガーの「少年」らしい、もしくは「人間」らしい振る舞いが見られるのは1744年から1757年までを舞台にした中篇『メリーベルと銀のばら』、または1820年を舞台にした『エヴァンスの遺書』において位のものである(『エヴァンスの遺書』では、エドガーは記憶を失い、幼児のようになってしまっているのだが)。彼はメリーベルへの深い追慕と、人間に戻りたいという叶わぬ望みを抱き続けながら長い年月を生きているのだが、底知れぬ絶望は表に現われることはない。美しい青い眼は氷のように冷たく、物言いは常にシニカルである。この壮大な物語の幕開けである短編『すきとおった銀の髪』の主人公チャールズには、「あれでぼくと同い年だって。百も年上みたいに見つめて・・つめたい目」などと呟かれている。あくまでも14歳の少年の姿かたちをしていながら、そして心の一部分は14歳のみずみずしさを保っていながらも、ふとした瞬間にこの世のものならぬ魔を覗かせる彼は、その時代時代に出会った人々の心に峻烈な印象を残して通り過ぎていく。1934年のロンドンを舞台にした短編『ホームズの帽子』の主人公ジョン・オービンに至っては、エドガーとの邂逅以来、『魔物』の魅力に取りつかれてしまい、エドガーを追い求めることに残りの数十年の人生を捧げるのである。読者もまた、ジョン・オービンと似た想いを抱かされる。生きていればいつかエドガー・ポーツネルに出会える一瞬があるのではないかと夢想せずにはいられない麻薬的な魅力を、この幻想的な物語の主人公は包含しているのである。
エドガーの名は、エドガー・アラン・ポーに由来する。