エンパワーメント
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エンパワーメント (エンパワメントとも、Empowerment) とは一般的には、個人や集団が自らの生活への統御感を獲得し、組織的、社会的、構造に外郭的な影響を与えるようになることであると定義される。
[編集] 概要
エンパワーメントとは、20世紀を代表するブラジルの教育思想家であるパウロ・フレイレの提唱により社会学的な意味で用いられるようになり、中南米を始めとした世界の先住民運動や女性運動、あるいは広義の市民運動などの場面で用いられ、実践されるようになった概念である。
今日では、市民参加のあり方が問われる地方自治などの分野において、市民の地域に対する関心や主体的な関わりを構築していく上で重要視されている概念のひとつともなっている。こうした中で、エンパワーメントという概念は、市民オンブズマン制度や行政アセスメント制度などの確立する上で理論的支柱となった。
このようにエンパワーメントはきわめて多義的である。よって、特に、市民参加としてのエンパワーメントのことを、コミュニティ・エンパワーメント或いは市民エンパワーメントともいう。また特に企業では単に権限委譲やスキルアップなどの意味でも用いられる。まちづくりの分野では福祉や防災などでエンパワーメントの概念が多用されるが、特に災害時においては市民の自助・共助による自主防災活動が必要となることから、防災分野では防災エンパワーメントという派生概念も存在する。また、先住民運動に当たっては、資源ナショナリズムなどの理論的枠組みとなった。
以上のように分野によりエンパワーメントの概念のとらえ方も若干の違いはあるが、端的にいえば「力をつけること」として理解されることがほとんどである。そもそも多義的な概念であることから、けして誤りとはいえないが、エンパワーメントの概念が意図するところは、人間の潜在能力を信じて、その発揮を可能にするよう平等で公平な社会を実現しようとするところに価値を見出す点であり、たんに個人や集団の自立を促す概念ではけしてない。何か目前の課題がある場合に当事者が自身の置かれた状況に気づき、問題を自覚し、自らの生活の調整と改善を図る力をつけることを目指す意味が用いられるものであるといえる。
エンパワーメント概念の基礎を築いたジョン・フリードマンはエンパワーメントを育む資源として、生活空間、余暇時間、知識と技能、適正な情報、社会組織、社会ネットワーク、労働と生計を立てるための手段、資金を挙げ、それぞれの要素は独立しながらも相互依存関係にあるといわれる。
地方自治や弱者の地位向上など下から上にボトムアップする課題を克服していく上で、運動のネットワークが生み出す信頼、自覚、自信、責任等の関係資本を育むことが、エンパワーメント向上の大きな鍵である。