オペアンプ
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オペアンプ(operational amplifier,オペレーショナル・アンプリファイア)は、非反転入力(+)と反転入力(-)と、一つの出力を備えた増幅器の電子回路モジュールである。日本語では演算増幅器という。OPアンプなどと書かれることもある。増幅回路、コンパレータ、積分回路、発振回路など様々な用途に応用可能である。
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[編集] 概要
オペアンプは二つの入力間の電位差によって動作する差動増幅回路で、裸電圧利得は十万倍~千万倍と非常に高く、負帰還回路と組み合わせて適切な利得と動作を設定して用いる。
演算増幅器の名称は、かつて自動制御機能などを電子回路で実現する際、微積分・比較・加算・減算などをアナログ演算によって行うために開発されたことに由来する。なお、こうした演算回路を自由に組み合わせて接続し、各種リアルタイム演算ができるようにした装置をアナログコンピュータという。 オペアンプは、現在では通常集積回路の形態であるが、トランジスタや真空管などの個別部品で構成されたこともある。
[編集] 特性
回路理論上は、「理想オペアンプ」と呼ばれる回路を想定する。
差動利得(*1) | Ad | 無限大 | |
同相利得 | Ac | ゼロ | |
同相弁別比 | CMRR | 無限大 | |
入力インピーダンス | Zin | 無限大 | |
出力インピーダンス | Zout | ゼロ | OPアンプの後ろにどの様な物が接続されても、OPアンプが動作させるため。 |
周波数帯域 | f | 無限大 | どの様な周波数においても一定の割合での増幅をすること。 |
内部雑音雑音 | ゼロ |
(*1)オペアンプの出力電圧は、差動入力電圧、すなわち+入力と-入力の電圧差にオープンループ利得を掛けた値になる。
Vout = (V+ − V−) * Gopenloop
実際には理想的な特性は実現できず、たとえば以下のような値になる
- 差動利得:105 ~ 107オーダ
- 同相利得:10-5オーダ
- 入力インピーダンス:106~109Ωオーダ
- 出力インピーダンス:102Ωオーダ
- 周波数帯域:数MHz~数10MHz
このほか、オペアンプが動作するため加える電源電圧を上回る入出力電圧は扱えない、入力電圧のオフセットがあり、温度により変化するなどの制約がある。
しかし、こうした値が実現できれば、理想的な値からのずれを考慮しつつ所要の目的を得るように回路を設計することが可能である。
オペアンプは入出力の機能や、必要とする電源、ピン配置などのパッケージングを標準化したものが多いので、設計作業の効率化に役立つ。
[編集] 回路例
[編集] 増幅回路
- 定常状態では、+と-の入力端子の電圧が等しいか、入力端子に流れ込む電流がゼロとして、入力電圧と出力電圧の関係を導く事が出来る。
- 例:非反転増幅回路で、Vin = {R1 / (R1 + R2)}Vout をVoutで解くと下記項目にある式が得られる。
- +と-の入力端子の電圧が常に等しい(イマジナルショートと称する)ので、+入力端子が接地されている場合は、-入力端子が接地されているとして、-入力端子に接続されている信号入力の入力インピーダンスを求める事が出来る。
[編集] 非反転増幅回路
入力信号と出力信号の位相が同一である増幅回路。電圧増幅率は 1 + R2 / R1 で表される。アナログスイッチ等を用いて増幅率(利得)を外部から設定できるようにした回路をプログラマブル・ゲイン・アンプ、 として電圧増幅率を1とした回路をボルテージ・フォロワと呼ぶ。
[編集] 反転増幅回路
入力信号に対して出力信号の位相が180°変化する増幅回路。電圧増幅率は − Rf / Rinで表される。非反転増幅回路よりも特性が安定するので、位相が問題にならない場合は反転増幅回路を用いる事が多い。
[編集] 差動増幅回路
原則としての条件で用いる。出力電圧は(V1 − V2)R3 / R1で表される。各入力にさらに非反転増幅回路(バッファアンプ)を設けた回路をインスツルメンテーション・アンプと呼び、計装用(工業用計測回路)に用いられる。
[編集] 演算回路
[編集] 微分回路
電圧値の微分値を出力する回路。入力電圧Viに対して出力電圧は − RCdVi / dtとなる。実際には高周波のノイズ成分なども増幅されるため、出力波形の立ち下りを滑らかにする不完全微分回路を用いることが多い。
[編集] 積分回路
電圧値の積分値を出力する回路。入力電圧Viに対して出力電圧はとなる。実際には、基準となる時刻からの積分を求めるためコンデンサの電荷を放電するリセット回路を設けることが多い。
[編集] 加算回路
複数の入力電圧を加算した値を出力する回路。入力電圧に対して<出力電圧は − (V1 / R1 + V2 / R2 + ... + Vn / Rn)Rfとなる。ただしオペアンプの最大出力電圧(定格)を超えることはできない。オペアンプの開ループゲインが十分に大きいことと、前段の出力インピーダンスが十分に小さいことが必要条件。
[編集] 種類
世界最初のオペアンプは1960年代にフェアチャイルドセミコンダクターから発表されたμA702である。その数年後に発表されたμA741は、セカンドソースや改良型を含めると30年以上にもわたって現役で使用されている。
現在主に用いられているオペアンプには次のような種類がある。
- 汎用オペアンプ
- 価格と使いやすさを優先した仕様となっている品種。μA741シリーズ、LM301A、TL072、RC4558など。LM358,324といった単電源タイプもある。特性では、一般に正負二電源を使うタイプの方が単電源タイプよりも良いが、最近は単電源タイプの物でも性能がよい物が開発され、品種が少しずつ増えてきている。
- 高精度オペアンプ
- ミリボルト単位の微小電圧(熱電対など)を増幅するための品種。オフセット電圧やドリフト特性に優れる。アナログ・デバイセズ社のOP07が有名。
- ローノイズオペアンプ
- オーディオ用に広帯域で低雑音を実現した品種。
- 微小電流オペアンプ
- 電離箱の出力やフォトダイオードの出力、電荷の測定などの微小電流を扱う用途に用いる品種。入力電流がfA(フェムトアンペア)オーダーの製品もある。
- 高速オペアンプ
- ビデオ信号の増幅など高周波(VHF)まで使用できる品種。
- ローパワーオペアンプ
- 消費電流を非常に小さくした品種。