真空管
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真空管(しんくうかん)は、電子管の一種で、整流、増幅などの作用を持つ電子回路用の素子である。
真空にしたガラス(金属・セラミックなども使われる)管に電極が封入されるところから真空管(Vacuum tube)の名を持つが、他に電子管(Electronic tube)あるいは熱電子管(Thermionic valve)、 Radio valveなどの別名がある。
日本では「球」(きゅう、たま)と呼ばれることもあり、「5球スーパーラジオ」(真空管を5本使用したスーパーヘテロダイン式ラジオ受信機の代表例)などの使われ方があった。
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[編集] 歴史
エジソンが電球の実験中に発見したエジソン効果(1884年)が端緒となり、その後フレミングが発明(1904年)した素子が二極真空管(二極管)で、三極真空管(三極管)は、リー・ド・フォレストが発明(1906年)した。 熱で暖めた金属の表面から放出される熱電子を利用、制御して、整流、検波(二極真空管)、増幅(三極真空管)などを行うことができる。
しかし
- 原理的に熱電子源(フィラメントもしくはヒーター)が必要なので消費電力が大きく、発熱する
- フィラメントやヒータの寿命が短い(数千時間程度)
- 小型化や耐震性に問題がある
などの理由から、戦後にトランジスタが発明され、1960年代以降生産歩留まりが高まってコストが安くなると、次第にそれに取って代わられることとなった。 その結果、主回路に真空管を使用したテレビ受像機やラジオ受信機は、1970年代に入ると生産が中止された。トランジスタではコンプリメンタリの素子が得られるという特徴があるが、真空管では原理上単一の極性のものしか得られないためである。
現在の用途は、ブラウン管(CRT)や日本で発明された蛍光表示管(VFD)は電子ディスプレイとして使われ、マグネトロンは強力なマイクロ波発生用として、レーダーや電子レンジに使われている。ブラウン管は各種平面ディスプレイに置き換わりつつあり、マグネトロンが残された唯一の大量生産される真空管となっている。
また、独特の音質を持つ増幅用素子として一部の音楽家に愛好され、高級オーディオアンプやギターアンプ等の限られた用途でも使用されている。またトランジスタアンプに比べて構造がシンプルな事から、自作オーディオマニアが真空管アンプを自作する例もよく見られる。
オーディオ用真空管は、日本やアメリカでは1970~80年代に製造が中止されたが、中国や東欧等では現在も製造が続けられている(秋葉原や大阪日本橋・名古屋大須などの一部専門店で入手可能)。なお、一部の放送局用、医療機器用、また防衛省向け等として、国産のものが製造されている。
「ベレンコ中尉亡命事件」でミグ25の機体検証が行なわれた際、通信機を始めとする電子機器類に真空管が使用されていた事から「ソ連は遅れている」との評が立ったが、実は真空管は、EMP(Electric Magnetic Pulse―電磁パルス、核爆発に伴って発生する強い電磁波)耐性が集積回路に比べて高い。核戦争に備えたソ連軍の思想であったとの意見もある。
[編集] 形態
- ナス管(1930年代まで)
- ST管(1930年代~1950年代)
- GT管(1940年代~1950年代)
- MT(ミニチュアあるいはミニアチュア)管(1950年代~末期)
- サブミニチュア(ミニアチュア)管(1960年代~末期)
二本分の働きを持たせる用途に複合管(双三極管・三極五極管など)、 外装をガラスから金属の筒とした、主にサブミニチュア管・GT管に使われたメタル管などもある。 メタル管は金属の筒で覆われているため、外から内部を見ることはできない。
[編集] 特徴
真空管の役割は21世紀になってほぼ終焉しているが、高周波大電力(10GHz・1kW以上)の用途では現在でも真空管が用いられている。主な特長・長所は次の通りである。
一方で、短所は次の通りである。
- 素子(の中のフィラメント)の寿命が短い(1000時間程度)。
- トランジスタに比べて素子単価が高い。
[編集] 動作原理
[編集] 電極構造と動作
[編集] 二極真空管による整流作用
二極真空管(二極管)はガラス管の中に、フィラメント(電気抵抗の比較的大きい電線で、両端を外部に引き出してある)と、フィラメントに向き合う板状の電極(形状からプレートと呼ぶ)を封入したものである。
真空中でフィラメント電極(陰極、カソード)に電流を流すと加熱され、熱電子が放出される。このとき、フィラメントを基準にしてプレート(陽極、アノード)側に正電圧を与えると、放出された熱電子は正電荷に引かれ陽極に向かって飛ぶ。この結果フィラメントからプレートに向けて電子の流れが生じる。すなわち、プレートからフィラメントに向かって電流が流れることになる。また、プレートに負電圧を与えると熱電子は負電荷に反発してプレートには達しない。従って、二極管はプレートからフィラメントに向かう電流のみ通すことになり、整流効果が得られる。
模式図では電極を並列に書いてあるが、実際の製品ではフィラメントを取り囲むような、筒状のプレートをもった構造が普通である。
二極真空管はダイオードと呼ばれたが、今日では同じ機能を持った半導体素子を「半導体ダイオード」、あるいは単にダイオードと呼ぶのが普通である。整流部に使われると負荷が多く、発熱も高いため寿命が短いことが多い。しかし、半導体のダイオードに置き換えるのが比較的容易なため、自作アンプや真空管ラジオの補修等で、整流管のみ半導体に置き換えることも行われている。
[編集] 三極真空管による増幅作用
二極管のフィラメント(陰極)とプレート(陽極)の間に粗い網状の電極(形状からグリッドと呼ぶ)を配置する。この三極真空管におけるグリッドは、陰極に対するその電位を変化させることによって、陰極-陽極間の加速電界を増強または抑制させる役割を持っている。二極管と同様に、プレートに対して正電圧が加えられると、陰極から放出された熱電子がプレートに到達する。そのとき一部の熱電子はグリッドに引き込まれるが、多くの電子はグリッドを通り抜ける。以上により、グリッドに電圧の変化(入力信号)を与え、プレートから電流(出力信号)を取り出すことで、信号の増幅が可能になる。
[編集] 四極真空管、五極真空管
三極真空管の増幅率を高めるには、グリッドを細かくして多くの電子を捕捉したり、グリッドをカソードに接近させて電子の軌道への影響を大きくしたりする方法が考えられる。いずれも高いプレート電圧が必要となるため、低いプレート電圧で用いるにはグリッドとプレートの間に第二グリッド(スクリーングリッド)を設け、正電圧を加える。これを四極真空管と呼ぶ。第二グリッドはプレートとグリッド間を静電遮蔽し、浮遊容量を小さくする作用もある。
しかし、四極真空管は安定に動作しないことが多い。それはカソードからプレートに到達し、プレートから放出された二次電子が第二グリッドに吸収されて電位が変化し、全体の増幅特性に影響するためである。その問題を解決するため、第二グリッドとプレートの間に第三グリッド(サプレッサグリッド)を設け、カソードまたはアースに接続したものを五極真空管と呼ぶ。プレートから放出された電子は第三グリッドによって反発されるため、二次電子の影響の無い安定な動作が可能となる。
また、四極真空管の第一グリッドと第二グリッドの位置を、電子が一点に収束するよう調整することでも、二次電子の影響を無くすことができる。これをビーム真空管と呼び、高効率の動作が可能なため電力増幅に多く用いられる。
[編集] 陰極加熱方法
陰極の加熱方法について分類した呼び名に直熱管と傍熱管がある。傍熱管のほうが長所が多く、傍熱管の発明以降は一般的に傍熱管が広く用いられた。
- 直熱管
- 傍熱管
-
- 筒状の金属管を陰極(カソード)とし、その内側にカソードと絶縁した加熱用の電線(ヒーター)を内蔵する電子管。
- ヒーターで熱せられたカソードの表面から熱電子が放出される。
- カソード材質の選択自由度が生まれた結果、効率的に熱電子を放出できるようになった。
- ヒーターに通電すると、ガラス管の場合、カソードの端部中心からヒーターが暗赤色に光る様子が観察できるが直熱管の場合ほど明るくない。
- 直熱管に比べ、電源投入から動作開始までの予熱時間が長い。
- 陰極(カソード)とヒーター回路が分離されているので、陰極(カソード)の直流電位に対する自由度が大きくなり、回路設計の自由度を増すことができる。
- ヒータ電源が交流電源の場合でも、出力には直熱管の場合ようなハムノイズは出ない。
[編集] 代表的な真空管
- 整流用二極管:12F,81,35W4,25M-K15,5MK9
- 整流用双二極管:80,5Z3,5AR4,5U4,6X4,5Y3,83,82
- 検波用二極管:6AL5
- 電圧増幅用三極管:6C4
- 電圧増幅用双三極管:12AX7,12AU7,12BH7A,6DJ8,6SN7
- 電力増幅用三極管:45,WE300B,2A3,211,845,8045G
- 電力増幅用ビーム管:UY-807,KT88,6550,6L6,6V6
- 電圧増幅用五極管:6AU6,6BA6,6BD6,6267,6SJ7
- 電力増幅用五極管:6CA7,6BQ5,6AR5,42,30A5,50C5
- 周波数変換用七極管:6SA7,6BE6
- 送信用三極管:3-500Z,3-1000Z
- 送信用四極管:4CX250B
- 送信用五極管:6146B,S2001A
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク