ガープの世界
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『ガープの世界』(The World According to Garp)はジョン・アーヴィングの4作目の小説。1978年刊行。アメリカでは数年にわたる大ベストセラーとなる。これによって一躍アーヴィングは現代アメリカの小説家の稼ぎ頭になった。
目次 |
[編集] あらすじ
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
物語は主人公T・S・ガープの出生の事情から始まる。ガープの母親ジェニー・フィールズは看護師だったが、子供は欲しいが夫は欲しくない、子作りのため以外にはセックスしたくないという固い意志を抱いていた。ある時彼女は、戦争で受けた怪我のせいで意識不明のまま寝たきりになっていた三等曹長のガープの看護をすることになる。頭部に銃弾が貫通したせいでこの植物人間の男根がつねに勃起しているのを知った彼女は、名前以外には何も知らないこの三等曹長とセックスし、子を宿す。こうしてT・S・ガープが生まれる。ジェニーは息子をひとりで育て、高校に通わせる。
成長したガープは3つのことに興味をもつ。セックス、レスリング、そして物語を書くことである。ガープの母ジェニーはこれらのどれにもあまり興味をもたなかった。ガープは作家になり、レスリングのコーチの娘に求婚し、そして結婚する。3人の子供が生まれる。一方ジェニーは『性の容疑者』という題名の自伝を書いてベストセラー作家になり、一躍フェミニストたちの憧れの的になる。
ガープはよき父親となり、子供が安全でいられるかという不安と格闘し、世界の危険から子供が守られるようにと願う。ガープ一家は暗く暴力的な出来事に否応なく翻弄され、それを通じて成長し、変化していく。ガープは人生で出会った女性たちから(しばしば痛ましい仕方で)多くを学び、不寛容を前にしてどうにかしてもっと寛容になろうとする。物語は愚行と悲哀に満ちているが、登場人物たちが経験する滑稽なまでの出来事の数々にはそれでも苦い真理が響いている。
『ガープの世界』にはジョン・アーヴィングの小説のほとんど全篇に現れる要素のいくつかが含まれている。熊、レスリング、ウィーン、登場人物の一生を追うディケンズ流の複雑な筋書き等。またアーヴィングの小説によく現れるもう一つのテーマである姦通も重要な役割を果たしており、この物語の最も印象的な場面で描かれている。アーヴィングの作品にこれもよく現れる去勢不安のテーマもあり、マイケル・ミルトンの悲劇的運命に明らかである。
[編集] 映画
『ガープの世界』は1982年に映画化された。監督はジョージ・ロイ・ヒル。脚本はスティーヴ・テジック。ガープ役にロビン・ウィリアムズ、フィールズ役に映画デビューとなるグレン・クローズを迎え、性転換した元フットボール選手のロベルタ役をジョン・リスゴーが務めた。クローズとリスゴーはアカデミー賞助演賞にノミネート。撮影はニューヨーク州の私立学校ミルブルック・スクールのキャンパスで行われた。
[編集] 小ネタ
- ガープの通っていた学校のモデルになっているのは、アーヴィングの出身校であるニューハンプシャー州エクセターの寄宿学校フィリップス・エクセター・アカデミーである。アーヴィングの継父がこの学校の教授を務めている。
- ガープの作家としての経歴が、アーヴィング自身の経歴とよく似ている。ガープの小説第1作はウィーンの動物園の動物を檻から逃がすというもので、『熊を放つ』に類似。ガープの第2作はスワッピングを扱ったもので、アーヴィングの小説第3作『158ポンドの結婚』とよく似ており、第2作である『ウォーターメソッドマン』とも若干似たところがある。ガープの小説第3作は『ベンセンヘイヴァーの世界』という題名で、(『ガープの世界』同様)主人公の名前から取られており、ジェニーによれば「性欲」を扱っている。偶然ながら、この第3作も『ガープの世界』同様ベストセラーになった。しかもガープはこの第3作が自伝的であるという説を一笑に付している(これはおそらくアーヴィングにも当てはまる)。
[編集] 日本における『ガープの世界』
『ガープの世界』は発表当初から日本のアメリカ文学研究者からも注目された他、作家の大江健三郎が『世界、ガープ発』という題名で紹介を試みたり、村上春樹(アーヴィングの『熊を放つ』を訳している)によって紹介され、翻訳が待たれていた。全訳は筒井正明の翻訳によりサンリオ文庫から1985年に刊行されたが、1987年のサンリオ文庫の廃刊に伴い絶版。翌1988年に新潮文庫から同じ訳者の翻訳が出版された。