キリスト人間説
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キリスト人間説は3世紀にあらわれたキリスト教の一思想でイエス・キリストの神性を否定するもの。正統派から異端とされた。
[編集] 概説
2世紀以降、神の唯一性と三位一体思想をどう調和させるかということがキリスト教内でもっとも熱い議論を呼んでいた。その1つの方向性を示したのがモナルキア主義であった。これはいわば、ある一点に力点を置くことで全体の調和を図ろうとするものであった。
キリスト人間説は、モナルキア主義の中でも動態(デュナミス)的モナルキア主義といわれるもので、イエスがマリアから生まれた単なる人間であり、内部に神の力(デュナミス)が宿っていたというものであった。それによって神の唯一性を保とうとしたのであるが、イエスの神性を無視できないと考えた正統派によって異端とされた。
3世紀のアンティオキアの司教であったサモサタのパウロスはこの思想の代表者であった。彼は神の単一性を強調してイエスの神性を否定したため、様態的モナルキア主義者からも攻撃されることになった。サモサタのパウロスの思想は264年と268年の地方教会会議において異端とみなされた。この会議において有名なマルキオンもパウロスを糾弾したといわれている。パウロスはローマ帝国の東方パルミラに逃れ、歴史から姿を消した。ただ、この教会会議においてイエスの中では人間の霊魂の位置に神の言葉(ロゴス)があったということが強調されたが、この考え方は後に正統派によって否定されることになった。