クラリネットソナタ (ブラームス)
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2つのクラリネットソナタop.120(第1番へ短調、第2番変ホ長調)はヨハネス・ブラームスによって1894年に作曲された。のちに作曲者自身によってヴィオラ用に編曲され、今日では、クラリネット版、ヴィオラ版ともによく演奏される。なお、作曲者自身の編曲によるヴァイオリン版も存在する。
目次 |
[編集] 作曲の経緯
晩年にいたり、ブラームスは創作意欲の衰えにより一度は作曲活動を中断するが、1891年に知り会った名クラリネット奏者リヒャルト・ミュールフェルトの演奏により再び創作意欲を取り戻し、クラリネット三重奏曲op.114(1891年)、クラリネット五重奏曲op.115(1894年)、さらにこのクラリネットソナタop.120というクラリネットの名曲を作曲した。このクラリネットソナタop.120の2曲はその中でも最後に作曲された作品で、ブラームスによって完成された最後のソナタ作品でもある。
公の場での初演は1895年1月7日にウィーンでミュールフェルトのクラリネットとブラームス自身のピアノによって行われたが、それに先立って、作曲された年の11月に同じ演奏者によりクララ・シューマンとヨーゼフ・ヨアヒムの前で私的な演奏が行われている。
[編集] 構成
情熱的な第1番へ短調と、安らいだ表情の第2番変ホ長調という対照的な2曲になっている。晩年のブラームスの孤高の心境と諦観の境地を示しており、枯淡の味わいをもった作品であるが、それでも楽譜にはappassionato(情熱的に)、espressivo(感情を込めて)の指示が多くされ、晩年に至っても失われなかったブラームスの情熱には驚かされる。
ちなみに、両曲にはブラームスの作品1である『ピアノソナタ第1番』第2楽章の主題(C-F-E♭-D♭)が引用されている(特に第1番第1楽章の冒頭、第2番終楽章終結部など)。このことは完成直後に楽譜を贈って批評を問うたクララ・シューマンへの手紙で言及されており、ブラームスは「蛇が尾を噛んで、環は閉じられたのです」と語っている。なお、磯部周平の研究により、この主題はロベルト・シューマンからブラームスへと受け継がれたものであることが明らかにされた(『シューマンからブラームスへ受け継がれた「クララ・コード!?」を読み解く』、「レコード芸術」2006年7月号)。
- 第1番 op.120-1 へ短調
- 第1楽章 Allegro appssionato
- 第2楽章 Andante un poco adagio
- 第3楽章 Allegretto grazioso
- 第4楽章 Vivace
- 第2番 op.120-2 変ホ長調
- 第1楽章 Allegro amabile
- 第2楽章 Allegro appassionato
- 第3楽章 Andante con moto
[編集] 編曲版
- ヴィオラ版
- この曲は、オリジナルのクラリネット版の作曲後(1895年)にヴィオラへの編曲が作曲者自身によって行われている。ヴィオラパートには、クラリネットでは演奏不可能な三重音による装飾音符や、一部(第2番第2楽章中間部後半)に重音箇所が付加されているほかは、ほぼクラリネットと同じ旋律のままとなっている。ピアノパートはもとのクラリネット版とほぼ同じである。このヴィオラ版について、自己批判の強いブラームスは作曲者自身が編曲したにもかかわらず、ヨアヒムへの書簡には「不器用で不満足なもの」と書いている。それでも、このヴィオラ版はヴィオラ奏者にとっては貴重なレパートリーであり、今日ではブラームスの「ヴィオラソナタ」として著名で、演奏機会も多い。
- ヴァイオリン版
- ヴィオラへの編曲版のさらにあとに、作曲者によってヴァイオリンへの編曲版も作成されている。これは、ヴィオラ版と違い、ピアノパートに大きく手が入れられている。ただし、ヴァイオリン版はこの楽器の低音部に音域が集中してしまっており、クラリネット・ヴィオラほどの演奏効果をあげないため、ヴァイオリンでの演奏機会はあまりない。
[編集] 編成
[編集] 関連項目
ブラームスのクラリネット曲
- クラリネット三重奏曲イ短調op.114(1891年)
- 編成:クラリネット、チェロ、ピアノ
- この曲も、作曲者により、クラリネットをヴィオラに持ち替えてよいとされており、「ヴィオラ三重奏曲」として演奏されることがある。ただし、ヴィオラ、チェロ、ピアノという編成ではあまりに音楽が渋くなりすぎるため、演奏されることはそれほど無い。
- クラリネット五重奏曲ロ短調op.115(1894年)
- 編成:クラリネット、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ
その他のクラリネットソナタについてはクラリネットソナタを参照。