コクセター群
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数学においてコクセター群(コクセターぐん、Coxeter group)は、対合からなる生成系を持ち、組み紐関係式と呼ばれる関係式を生成元の基本関係式として持つ群のことである。
ジャック・ティッツ (Jacques Tits) は、コクセター群を(一般に高次元の)ユークリッド空間における鏡映(裏返し)として捉える方法を与えた。
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[編集] 定義
生成系 S をもつ群 W がコクセター群である、または組 (W, S) がコクセター系 (Coxeter system) であるとは、以下の条件
- S は対合からなる: s ∈ S ならば、必ず s2 = s が成り立つ。
- 組み紐関係式 (braid relation): s, t ∈ S が s ≠ t であるならば、2 以上のある整数(または ∞)ms,t で (st)ms,t = 1 となるものが取れる。
- それ以外に生成元の間には関係がない。
がすべて満たされるときにいう(ただし、ms,t = ∞ は s と t の間に関係がないことを表す)。これは次のように
- s ∈ S ならば s-1 = s が成り立つ。
- s, t ∈ S で s と t が相異なるとき、s と t には関係が無いか、関係がある場合には次が成り立つ; s と t を交互に ms,t 個並べる方法が 2 通りあるが、そのいづれも同じ元を定めるような 2 以上の整数 ms,t が存在する。
- stststst… = tstststs… (両辺とも因数の数は ms,t 個)
- 生成元はそれ以外に関係式を持たない。
とも書く事ができる。 また、S = {x1, x2, ..., xn} とすれば以下のように表示できる:
ただし、i, j, k = 1, 2, ..., n かつ mi,j (i ≠ j) は 2 以上の整数か ∞ である。
(W, S) がコクセター系であるとき、生成系 S に属する元の個数 |S| をコクセター群 W の階数 (rank) といい、rank W と表す。
[編集] 例
Sn+1 を n + 1 次対称群とする。n 個の互換 si = (i, i + 1) (i = 1, 2, 3, ..., n) をとると Sn+1 は {s1, s2, ..., sn} を生成系とするコクセター群となる。
また二面体群もコクセター群である。
[編集] コクセター図形
G が S を生成系とするコクセター群であるとき、(st)ms,t = 1 となるms,t (s, t ∈ S) を成分とする |S| 次の対称行列
をコクセター行列 (Coxeter matrix) (あるいは行列要素 ms,t を 2 変数の関数と見て、コクセターデータ)という。ただし、s ∈ S に対して ms,s = 1 である。コクセター行列が与えられたとき、コクセター図形 (Coxeter graph, Coxeter diagram) と呼ばれる図形が
- 各生成元 s ∈ S に対応して、|S| 個の頂点を打つ。
- ms,t = 2 ならば何もしない。
- ms,t ≥ 3 ならば s, t に対応する頂点を変で結び、辺に ms,t の値を記す。
という手順で定まる。逆に、コクセター図形が 1 つ与えられれば、コクセター行列を復元することができ、したがってコクセター群が一つ定められる。すなわち、コクセター群を与えること、コクセター行列を与えること、コクセター図形を与えることの三者は等価である。
コクセター図形が 2 つ以上の連結成分に分かれるとき、対応するコクセター群は各連結成分に対応するコクセター群たちの直積に分解される。連結なコクセター図形あるいはそれに対応するコクセター群は既約であるという。
[編集] 幾何的実現
コクセター系 (W, S) が与えられているとき、実数体 R 上の |S| 次元ベクトル空間 V を考える。V の基底を一つ取り、S で添え字付けしたものを {es | s ∈ S} とするとき、V に内積(コクセター形式)<·, ·> を
によって定める。ここで、ms,t はコクセターデータである。各 s ∈ S に対して ms,s = 1 で、cos(π) = -1 であるから、この内積に関して各 es は長さ 1 (単位ベクトル)である。また、ms,t = ∞ のときは自然な極限をとって、内積の値を -1 とする。
このとき W は S の各元 s に対し、
と置くことにより V に作用する。この作用は内積を保存し、各 s は es を -es に移すことから、S の各元を V の鏡映として実現するような W の忠実表現を与える。この表現を W の標準幾何的実現 (standard geometrical realization) という。
この表現で s は、es に(内積 <·, ·> に関して)直交するような(超)平面 に関して対称となるように V の各ベクトルを移す鏡映となる。この(超)平面は、s の作用に関して不変な(超)平面であり、s の定める壁 (wall) と呼ばれる。
[編集] 関連概念
このとき、
を (s, t)-成分とする行列 (cs,t)s,t∈S をW の標準カルタン行列という。また、
で定められる V の部分集合を、V における W のルート系 (root system) と呼ぶ。
[編集] 参考文献
- ウィリアム・キャセルマン The CRM Winter School on Coxeter groups; Lecture notes
- ポール・ギャレット Buildings and Classical Groups, Chapman & Hall/CRC.(1997年)ISBN 0-412-06331-X. ([1] にPSファイルがある)
[編集] 関連項目
- 二面体群
- ワイル群
- ディンキン図形
- ビルディング (数学)
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