ゴーメンガースト
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『ゴーメンガースト』 (Gormenghast) は、イギリスの作家マーヴィン・ピークのゴシック・ファンタジー小説である。また、その舞台となる架空の城の名前でもある。
シリーズは『タイタス・グローン』 (Titus Groan, 1946) 、『ゴーメンガースト』 (Gormenghast, 1950) 、『タイタス・アローン』 (Titus Alone, 1959) の三部作とされる。中篇「闇の中の少年」 (Boy in Darkness, 1956) は、タイタスの名に言及してはいないが設定を共有している。このシリーズは一般的に「ゴーメンガースト三部作」と呼ばれるが、『タイタス・アローン』にはゴーメンガースト城は登場しない。実際、ピークが書こうとしたのは主人公タイタス・グローンの伝記であって、ゴーメンガースト城の歴史ではなかった。したがって、本シリーズにはタイタスの名を持たせる方が適切かもしれない(事実、原書の初期の版のタイトルは「タイタスの書」だった)。
ピークはタイタスのその後と城との関わりを書き続けようとしていた。シリーズは少なくともあと2冊(仮題 'Titus Awakes' および 'Gormenghast Revisited' )が予定されていたが、ピークの健康上の問題のため、書かれたのは未完成の数章と覚え書きだけだった。話としてまとまっているのは 'Titus Awakes' のわずか3ページで、三部作のOverlook Press版 (ISBN 0-87951-628-3) に収録されている。
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[編集] ゴーメンガースト城
ゴーメンガースト城は、中世の城の側面と摂政時代のイギリスの大邸宅の側面を併せ持っている。しかし実際には小規模の都市国家のようなものであり、城とその周辺のごく限られた地域だけで完全に閉ざされた世界を形成している。城内には書庫、大台所、彫刻保管用の広間、食堂、学校などさまざまな施設があるが、その他にも隠し部屋や秘密の通路などが無数に存在し、城の住人でさえ全容を把握してはいない。海外ではゴーメンガースト城は無秩序な広がりを持つ大型建造物の代名詞となり、ほかのフィクションでも引き合いに出されることがある。
ゴーメンガースト城の日常生活においては、儀式が重要な役割を果たす。これはとりわけ伯爵に関して顕著で、伯爵はゴーメンガーストの伝統の不透明で難解な教義を厳守することに日々多くの時間を割くよう定められている。このゴーメンガーストの厳格な法に対するタイタスの畏れと反抗は、シリーズの重要なテーマのひとつになっている。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] 主要な登場人物
[編集] 伯爵家
- タイタス・グローン (Titus Groan)
- シリーズの主人公で、ゴーメンガースト伯爵の後継者。タイタスが称号を受け継いだのはまだ子供のときだったが、成長するにしたがって、家に対する相矛盾した感情を育んでいく。自分の系統に対する誇りと、城とその伝統から逃げ出したいという思いに引き裂かれるのである。結局、タイタスはゴーメンガースト城を去る。
- セパルクレイヴ (Sepulchrave)
- タイタスの父。陰鬱な人間で、伯爵としての職務に束縛感を感じているが、決してそれに疑問を挟むことはない。唯一の逃避は読書だったが、城の書庫が焼け落ちると、狂気におかされ、自分は見捨てられた火打ちの塔の死の梟だと信じるようになった。梟の群れに加わり、そこで喰われる。
- ガートルード (Gertrude)
- タイタスの母。暗赤色の髪の太った女性。家族にもゴーメンガーストの他の部分にも全く関心を示さず、多数の猫や鳥たちと共に寝室に閉じこもっている。ガートルードが愛情を示すのは猫や鳥に対してだけである。しかし、ひとたびその知性を示す機会が訪れると、ガートルードはゴーメンガースト城でも最も聡明な者であることを示し、(フレイやプルーンスクワラーらと共に)ゴーメンガーストの日常に生じた穏やかならぬ変化に気づき、調査を開始した。
- フューシャ (Fuchsia)
- タイタスの姉。お高くとまった、自己陶酔的な面もあるが、思いやりのある、世話好きな面もある。最初はタイタスを恨んだこともあったが、すぐにタイタスとの絆を深めだしていく。家族の中でタイタスを最も愛していたのはフューシャであった。
- コーラ (Cora) とクラリス (Clarice)
- タイタスの伯母。双子で、ほとんど見分けがつかない。二人とも若い頃発作に襲われ、左半身が麻痺している。性格もほとんど同じで、どちらもあまり知的であるとはいえないが、コーラの方がクラリスよりわずかに賢い。共に政治権力を渇望し、ゴーメンガーストにおける自分たちの正当な地位を奪ったと信じるガートルードを嫌悪している。その無思慮な野望と復讐欲により、スティアパイクの手先と化していく。
[編集] その他のゴーメンガースト城の住人
- スティアパイク (Steerpike)
- 若き異端児。登場時は大台所の使用人だったが、自己の利益のために徐々にゴーメンガーストの権力の階段を上っていく。冷酷な殺人者であり、極度のマキャヴェリストとして陰謀に長けている。そのために魅力的に振る舞い、場合によっては高貴な態度をとることさえできる。タイタスに対しては自然と敵意を抱くようになっている。
- フレイ (Flay)
- セパルクレイヴ卿の従僕。ゴーメンガーストの規則を頑なに信仰している。しかし決して薄情者ではなく、タイタスやフューシャのことを気にかけてもいる。やがて、伯爵妃の猫をスティアパイクに投げつけたことでゴーメンガーストから追放される。
- アルフレッド・プルーンスクワラー (Dr. Alfred Prunesquallor)
- 城に住む医師。甲高い声で笑い、大げさな言葉使いの奇矯な人物。言葉は辛辣だが、非常に親切であり、フューシャやタイタスを気に入っている。文章中数カ所で「バーナード」という名前も使われているが、邦訳ではすべて「アルフレッド」に修正されている。
- イルマ・プルーンスクワラー (Irma Prunesquallor)
- プルーンスクワラー医師の妹。可愛らしさとは無縁だが、相当なうぬぼれ屋である。男性から賞賛され、愛されたいと必死になっている。
- スウェルター (Abiatha Swelter)
- 太った、残虐な料理長。フレイに対して根深い恨みを持ち、殺害を企てる。
- スラグ (Nanny Slagg)
- 小柄な老婆で、幼児時代のタイタスの子守役。その前はフューシャの子守役だった。いくぶん高齢で、劣等感を持っている。
- サワダスト (Sourdust)
- 物語開幕時の儀典長。ゴーメンガースト城の日常を取り仕切る、さまざまな難解極まりない儀式を司る。サワダストの死後、儀典長の地位は息子のバーケンティンが継ぐ。
- バーケンティン (Barquentine)
- 父の跡を継ぎ儀典長となる。片足が不自由で、醜悪で、信じがたいほど不潔である。究極の厭世家で、ゴーメンガーストの法と伝統だけにしか関心がない。スティアパイクを助手にするという重大な過ちを犯す。
- ベルグローヴ (Bellgrove)
- タイタスの教師のひとりで、ゴーメンガーストの塾頭になる。極端に老齢である。多くの点で典型的なぼんやりとした教授で、講義中に居眠りをしたり、ビー玉をもて遊んだりする。しかし、内面にはある種の厳粛さや高潔さを持っている。イルマ・プルーンスクワラーとは特異なロマンスを展開する。
- ケダ (Keda)
- ゴーメンガーストの城壁の外側に住む〈外〉の民のひとり。タイタスの乳母に選ばれるが、やがてこの地位を離れる。後にケダをめぐって殺し合うことになる二人の恋人がいて、うちひとりの子供を身ごもる。
- 〈やつ〉 (Thing)
- ケダの娘。私生児であるため追放され、野生児となりゴーメンガースト周辺の荒野に住む。タイタスは、この娘はあらゆる点でゴーメンガーストの対極にあると考え、夢中になる。