ファンタジー
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ファンタジー(fantasy)は幻想的・空想的な要素が特徴的な作品が属するジャンル。
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[編集] ファンタジーの定義
ファンタジーの定義はあいまいであるが、サイエンス・フィクション(SF)との対比で言うと、SFでは世界設定や物語の展開において自然科学の法則が重要な役割を果たすのに対し、ファンタジーでは空想や象徴、魔術が重要な役割を果たす。
ただし、SF作品においても、現実世界には存在しない科学法則を仮定し、それに基づいた世界や社会を描く試みがあること、逆にファンタジー作品においても錬金術や魔法などに体系的な説明が用意されている場合があること、など、両者の線引きを困難にするようなケースがある。SFとファンタジー両方の性質を併せ持った境界線上の作品(SFファンタジー)も多数発表されている。
ファンタジー作品の舞台となる場所や時代は様々である。一例として中世ヨーロッパ、オリエントや古代日本、中華帝国など、各地各時代の神話伝説の世界を背景世界とした作品が挙げられるが、(作品が創作された時点での)現代や、全く架空の世界を舞台にした作品も多く存在する。
特に日本に於いて、狭義の「ファンタジー」というジャンルは中世ヨーロッパ風の世界で繰り広げられる物語を表すことがある。時代背景・小道具・登場人物の振る舞いなどは現実の中世ヨーロッパをモチーフとしているが、中世ヨーロッパの人々が抱いていたと想像される神話や伝説、キリスト教に基づく世界観を、直接あるいは間接的に世界設定やストーリー構造に取り入れているのが特徴である。よく題材として扱われる要素として、ドラゴン(竜)や妖精を代表とする各種の怪物、騎士、王家、とらわれの姫君の救出、立身出世、などが挙げられる。
ファンタジーの定義を広く「仮想の設定のもとに世界を構築する作品」とし、SFをサイエンス・ファンタジーとしてファンタジーに含ませる考え方もある。また逆に、近代文学におけるファンタジーの形成と再評価の歴史から、ファンタジーをSFの有力な一分派とする考え方もある。いずれの観点を取るにせよ、この両者は明確な境界が存在し得ない程近しい関係にあると言えるだろう。
なお形容詞として幻想的という意味の英語は「ファンタスティック」(fantastic)であり、たまにカタカナ語で見られる「ファンタジック」という言葉は本来の英語では誤りである。
[編集] 文学におけるファンタジー
[編集] ファンタジーの源流
文学史の中にファンタジーの起源を求めると、民族原初の神話伝説に行き着く。「聖書」、「古事記」、「ベオウルフ」、「イリアス」、「マハーバーラタ」、「ギルガメシュ叙事詩」、「アーサー王伝説」など古代の書物に描かれた数々の天地創造の起源譚や英雄物語は、現代のあらゆるファンタジー作品にまで連なっている。
そして、これらの神話伝説を素材として編まれた、数々の文学作品がファンタジーへの流れを形成する。一方にはイソップ童話のような童話から児童文学につながる流れがあり、他方にはダンテの『神曲』やミルトンの『失楽園』といった教養人たちの文学なども、ファンタジーの先駆的作品とみなすこともできよう。
また、18世紀、イギリス最初の小説の1つといわれる『ロビンソン・クルーソー』に触発され書かれたジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』は、独自の世界観や政治的風刺とも読める内容など、その後優れた作家を多数輩出することになる英国ファンタジーの先駆的な作品として後世に多大な影響を与えている。
近代文学におけるファンタジーは、19世紀から20世紀初頭にかけて隆盛を誇ったリアリズム文学に対するアンチ・テーゼとして出発している。すなわち、小説世界のルールは現実世界に順じ現実の一コマとして存在しうる物語であるというリアリズム文学に対し、小説世界のルールを小説世界で規定し現実にはありえない物語をファンタジー文学と呼んだのである。
最初期のファンタジーは、主に児童文学の領域にみられる。すなわちチャールズ・キングスレイ『水の子 陸の子のためのおとぎばなし』(1863年)やルイス・キャロル『不思議の国のアリス』(1865年)などである。これらは、既に単に子供向けではない大人向けの含蓄が含まれる点で、初期ファンタジー文学としての形質が見られる。その後の流れとしては、ライマン・フランク・ボーム『オズの魔法使い』(1900年)、ジェイムズ・バリ『ピーター・パンとウェンディ』(1911年)、パメラ・トラバース『風にのってきたメアリー・ポピンズ』(1934年)などが挙げられる。これらもファンタジー文学、児童文学両方の扱いがなされる。
やがてファンタジーは児童文学の一分野として扱われながらも、次第に対象を大人にも広げて行き、またサイエンス・フィクションとも相互に影響しあって発展していく。児童文学に分類されない、大人向けのファンタジーとしてはロバート・ネイサン「ジェニーの肖像」(1939年)や、ジャック・フィニイ「ゲイルズバーグの春を愛す」(1963年)などが代表作として挙げられる。
[編集] 近代ファンタジー
児童文学に分類されない近代ファンタジーは、ファンタジーの定義の解釈によって諸説はあるものの、狭義のファンタジーとしては1920年代から1940年代にかけて隆盛を誇ったパルプ雑誌を嚆矢とすることができる。特に通常はSFとファンタジーとの境界作品的な存在であるため、そのどちらにも分類されるエドガー・ライス・バローズの火星シリーズ(第1作「火星のプリンセス」は1912年に原型が発表され1917年に完成)、ロバート・E・ハワードによるヒロイック・ファンタジーの最初の完成型とも言われる英雄コナンシリーズ(1932年に第一作発表)がこの時代の代表作であり、同時にトールキン以前の近代ファンタジー文学の1つの典型と言える。
なおロバート・E・ハワードは多数の模倣者を生み出したことでも知られ、彼とその有象無象の模倣者たちはヒロイック・ファンタジーや同時代に隆盛を誇ったスペース・オペラなどの形成に大きな役割を果たしている。
同時期の特筆すべき事項としては、1923年創刊のパルプ雑誌「ウィアード・テールズ」誌、同じく1939年創刊の「アンノウン」誌の2雑誌の存在である。「ウィアード・テールズ」はホラー文学に、「アンノウン」はサイエンス・フィクションに近い雑誌ではあるものの、ファンタジー的な要素も強く、トールキン以前の近代ファンタジーの形成には無視できない存在となっている。
そして、ファンタジー文学の一大転機となったのはやはりJ・R・R・トールキンによる『指輪物語』(1954年)であろう。トールキンの「リアリズム文学へのアンチテーゼ」という第二者的な立場から脱却した「神話の構築」という独自の立脚点による作風は、後のファンタジー作家に多大な影響を与え、以降「トールキン様式」にならった多数の剣と魔法の小説作品が書かれることとなった[1]。とくにトールキンの作品に近い傾向の作品を「ハイ・ファンタジー」と呼ぶこともある。「トールキン様式」の影響は、ファンタジー文学のみならずコンピュータRPGや映画『スター・ウォーズ』シリーズ、ポケットモンスターなど他の表現形式にも及んでいる。
またトールキンは、彼の言語学者としての専門知識を駆使して架空の神話から人工言語まで編み出し、極めて綿密に世界を構築した作品を創作しているという点においても、従来のファンタジー作家とは一線を画す存在である。学者出身のファンタジー作家の作品としては、他に、トールキンの元同僚でもある宗教学者C・S・ルイスの『ナルニア国ものがたり』シリーズ (1950年 - 1956年) や、文化人類学者上橋菜穂子の『守り人』シリーズ(1996年 -)などがある。
一方、トールキン様式ではないファンタジーも根強い人気があり、トールキン以後も、W・P・キンセラ『シューレス・ジョー』(1982年)などがファンタジーの傑作として映画化(「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年))されるなどしている。また、J・K・ローリングの『ハリー・ポッター』(1997年 - ) は、現代のイギリスを舞台に現実空間のすぐそばに魔法の通用する仮想空間を置くことで、リアリズム文学とファンタジー文学との融合を図る独特の作風を持ち、世界的なベストセラーとなっている。
[編集] 代表的な作品
[編集] 海外の作品
- 指輪物語(J・R・R・トールキン)→(映画:ロード・オブ・ザ・リング)
- ホビットの冒険(J・R・R・トールキン)
- ナルニア国ものがたりシリーズ(C・S・ルイス)→(映画:ナルニア国物語)
- ゲド戦記(アーシュラ・K・ル=グウィン)→(アニメ:ゲド戦記)
- モモ(ミヒャエル・エンデ)
- はてしない物語(ミヒャエル・エンデ)→(映画:ネバーエンディング・ストーリー)
- オズの魔法使いシリーズ(ライマン・フランク・ボーム他)→(ミュージカル映画:オズの魔法使い)
- パーンの竜騎士シリーズ(アン・マキャフリイ)
- エターナル・チャンピオンシリーズ(マイケル・ムアコック)
- 英雄コナンシリーズ(ロバート・E・ハワード)→(映画:コナン・ザ・グレートシリーズ)
- 魔法の国ザンスシリーズ(ピアズ・アンソニイ)
- ベルガリアード物語/マロリオン物語シリーズ(デイヴィッド・エディングス)
- エレニア記/タムール記シリーズ(デイヴィッド・エディングス)
- ダレン・シャンシリーズ(ダレン・シャン)
- ハリー・ポッター(J・K・ローリング)→(映画:ハリー・ポッター)
- イルスの竪琴シリーズ(パトリシア・A・マキリップ)
- ネシャン・サーガ(ラルフ・イーザウ)
- 暁の円卓シリーズ(ラルフ・イーザウ)
- ドラゴンランスシリーズ(マーガレット・ワイス、トレイシー・ヒックマン他)
- スペルシンガー・サーガ(アラン・ディーン・フォスター)
- 真実の剣シリーズ(テリー・グッドカインド)
- 時の車輪シリーズ(ロバート・ジョーダン)
- ランドオーヴァー(テリー・ブルックス)
- ファファード&グレイ・マウザーシリーズ(フリッツ・ライバー)
- ノーチラス号の冒険(ヴォルフガンク・ホールバイン)
- ハウルの動く城シリーズ(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)
- バーティミアス3部作(ジョナサン・ストラウド)
[編集] 国内の作品
- 一千一秒物語(稲垣足穂)
- だれも知らない小さな国(コロボックル物語シリーズ)(佐藤さとる)
- ロードス島戦記シリーズ(水野良)
- グイン・サーガ(栗本薫)
- 十二国記シリーズ(小野不由美)
- スレイヤーズシリーズ(神坂一)
- 守り人シリーズ(上橋菜穂子)
- 勾玉シリーズ(荻原規子)
- ブレイブ・ストーリー(宮部みゆき)
- 魔術士オーフェンシリーズ(秋田禎信)
- クレヨン王国シリーズ(福永令三)
- 漫画作品
- 詳しくはファンタジー漫画の項目を参照のこと。
- ゲーム作品
[編集] 脚注
- ^ ただし「神話の構築」という視点、およびその多様な模倣作品という点についてはロバート・E・ハワードの時点で既に形成されていたと言う議論もある。
[編集] 関連項目
- ハイ・ファンタジー
- エピック・ファンタジー
- ヒロイック・ファンタジー
- 歴史ファンタジー
- ダーク・ファンタジー
- バトル・ファンタジー
- ロー・ファンタジー
- SFファンタジー
- 魔法使い
- ヒーロー、ヒロイン、ライバル
- ロールプレイングゲーム
[編集] 参考文献
- 石堂藍 『ファンタジー・ブックガイド』 ISBN 433604564X
- 風間賢二 『きみがアリスで、ぼくがピーター・パンだったころ―おとなが読むファンタジー・ガイド』 ISBN 4901491083
- いするぎりょうこ 『ファンタジーノベルズガイド』 ISBN 4883172147
- 脇明子 『魔法ファンタジーの世界』 岩波新書 新赤版1020 岩波書店 2006年 ISBN 4-00-431020-2