サルガッソ海
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サルガッソ海(—かい)はバミューダ諸島の南東と西インド諸島の間にある海域。浮遊性の海藻「サルガッスム (Sargassum)」にちなんで「サルガッソ海」と呼ばれており、「粘りつく海」といわれるのも、この海藻によるものである。
大量の気泡を内包しており、アメリカの沿岸地域に多量に生えているこの海藻が嵐によって海を漂流し、海流に乗ってサルガッソ海に流れ着く。サルガッソ海では巨大な渦がゆっくりと流れているため、海藻はこの海域に溜まることになり、それが数世紀わたって蓄積されつづけた結果、海面が半ば固体と化した半液体状になってしまっている。
船舶にとってこの海が危険なのは、この海がある場所が弱い風しか吹かない亜熱帯の、それも無風地帯にあることで、特に帆船は数週間は身動きがとれなくなる。そのため船乗りはこの海域を「ホース・ラチチュード」と呼んでいた。この天然の障害物というべきものに遭遇してしまうと、なす術は無いため後は幸運を祈るしかない。
帆船の時代において、風に恵まれ脱出できた者も存在するが、この海に入り込んだ者の大抵には悲惨な結末が待っている。何週間も動けずにいる間に船体に海藻が絡みつき、風が吹いたときには既に動けなくなっているのである。ボートで船を引っ張ろうと試みる者もいたが、そのボートのオールにさえも海藻が絡みつきなす術は無かった。そのため、船乗り達は水と食糧不足で全滅することになる。
無人となった船は、その後も長い間この海域をさ迷うが、やがて帆が腐り、マストが倒れ、最後には海藻に付着して一緒に流されてきたフナクイムシに船体を食い荒らされて沈んでいく。これまでにも、無数の船がこの粘りつく海に捕まり脱出できぬまま沈んでいったとされている。
やがて帆船の時代から蒸気船の時代となっても、この海の危険性は変わらなかった。船を動かすための外輪に海藻がからまり、船を止めかねなかったからである。蒸気船が発達し、大型で強力な船が作れるようになって、ようやくこの海は危険なものではなくなった。現在では、強力なスクリューが海藻を切り裂きながら進めるため危険は無いが、やはり小さな船舶には危険が伴う。