ゼロ金利政策
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ゼロ金利政策(ぜろきんりせいさく:zero interest rate policy)とは、1999年2月から日本でとられた金融政策のこと。ゼロ金利政策は2000年8月に一度解除された後、2001年3月には量的金融緩和政策が導入されて再び短期金利が実質的にゼロとなった。
日本銀行は、ゼロ金利政策の期間を1999年2月から2000年8月までとし、2001年3月から2006年3月に量的金融緩和政策が解除されるまでの間は、単なるゼロ金利政策とは異なるものという見解を示しているが、2006年7月に短期金利の誘導水準目標が0.25%に引き上げられるまでの間は、実質的に短期金利がゼロであったため、2001年3月以降の時期の金融政策についてもゼロ金利政策と呼ばれることもある。
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[編集] 概要
1998年、バブル崩壊後最悪の経済状況となる中で、大規模な財政政策がとられた。金融政策においても緩和が求められることになり、1999年2月、短期金利の指標である無担保コール翌日物金利を史上最低の0.15%に誘導することが決定された。このとき、当時の日本銀行総裁速水優が「ゼロでも良い」と発言したことからゼロ金利政策と呼ばれるようになった。
日銀では、デフレ下とはいえ金利をほぼゼロにしてしまうのは経済における金利機能の低下をもたらし、流動性の罠をも招きかねないという考えがあった。このため、ゼロ金利政策はあくまで一時的で緊急の措置であり、すぐにでも解除したい構えであった。
[編集] ゼロ金利政策の解除
[編集] 2000年の一時解除
1999年末には、アメリカのITバブルの波及で日本にも急速な景況改善が見えてきた。翌春にはITバブルは崩壊したが、しばらく日本経済の小康状態が続いたことなどから、2000年8月11日の金融政策決定会合でゼロ金利政策は解除が決定された。
しかし、その後世界的な同時不況が訪れ、2000年末に景気後退が始まった。このため、早くも翌2001年2月末には政策金利である無担保コールレートは0.25%から0.15%に引き下げられ、3月には量的金融緩和が開始されて無担保コールレートは実質的にゼロに低下し、再びゼロ金利政策が始まった。その後の評価として、2000年8月における金融引き締めは拙速であったとされる。
2000年8月の時点では、消費者物価は前年比で下落を続けており、政府は物価が持続的に下落するデフレが続いているとして、ゼロ金利政策の解除に反対する姿勢を見せた。しかし、日銀は物価の下落を良いデフレとして問題ではないとする立場をとった。
2001年以降の金融緩和の中で長期金利は低下を続け、2003年には0.43%にまで落ち込んだ。この0.43%という長期金利は世界史上最も低い利率とされる。
[編集] 2006年の解除
米国経済がITバブル崩壊から立ち直ると日本の景気も回復に向かい、2002年初めからの長期にわたる景気回復局面を迎えた。2005年になると消費者物価の下落は緩やかとなり、2006年に入ると前年比で上昇するようになった。このため日銀は3月9日の金融政策決定会合で量的金融緩和政策を解除し、無担保コールレートを概ねゼロ%で推移するよう促すという、純粋なゼロ金利政策に移行した。その後も景気回復が続き物価下落の圧力も低下したことから、7月14日の政策委員会・金融政策決定会合でゼロ金利政策の解除が全会一致で決定され、短期金利が実質的にゼロという状況は2001年3月以来、5年4ヶ月ぶりに解除された。 しかし、2006年8月のCPI基準改定により2005年を基準年とすると2006年1月・4月がマイナスだったことが明らかとなり、金利引き上げが時期尚早だったという批判もでた。
[編集] 経済への影響
[編集] 施行時
ゼロ金利政策を採用することは、中央銀行がこれ以上の金利を目標とした金融緩和ができなくなることを意味するため、金融政策が無力化する(流動性の罠)。このためさらに金融緩和する場合は貨幣量を目標とした量的緩和や将来の金融緩和を約束する政策などを採用することになる。
一方で、金利負担の低下が財政政策の発動や設備投資の容易さに結びつき、総需要増大効果をもたらす。 また、重債務企業の存続が容易になるため、経済資源の再配分が低調になる。物価低下時においてはそもそも経済資源への需要が低下しているため、利益率の低い産業が経済資源の解放を迫られないため、金融面からの再配分低調化と符合する。
た資産価値における金利計算の意味合いが薄れるため、いったん資産価格上昇が起き始めると、信用取引などにより流動性が資産市場に流入するため資産市場が活況を呈する。債券の価格が上昇し、低利で資金調達できる。
また、諸外国通貨との金利スプレッドが広がるため自国通貨安になりやすい。このため輸出が増えやすく、輸入が減りやすくなり、経常黒字・資本収支赤字が拡大し外需主導の経済成長がおきやすくなる。
[編集] 解除時
解除後は、上記の政策効果の逆転が起きる。
金融政策が実効性を取り戻すため、インフレ期待発生を抑制できる。
金利負担の上昇により財政支出や設備投資への抑止効果が働き、総需要増大が抑制される。債務負担の増大により重債務企業が存続できなくなり、経済資源が解放される。そもそも、ゼロ金利政策の解除時は物価が上昇に向かっていると判断されているため、経済資源への需要は増大していると考えられ、政策と実体経済は符合する。物価が上昇に向かっていないにもかかわらず解除した場合は再びデフレに陥ると考えられる。
資産価格は、ゼロ金利時の上昇などに調整が入る。また低金利下で発行された債券の価格が低下する。
諸外国通貨との金利スプレッド縮小への期待から自国通貨安が減速ないし自国通貨高への反転が起きやすくなる。これにより経常収支の黒字・資本収支の赤字が縮小する。これは、国内経済の拡大により内需が拡大しているため外需へ振り向ける余力が低下しているか内需外需がともに伸び悩んでいる状態を反映しているとされる。
[編集] 関連項目
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