ツチトリモチ科
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ツチトリモチ科(Balanophoraceae)は、一見キノコに似ているが、菌類ではなく、双子葉植物である。新エングラー体系ではツチトリモチ目に、クロンキスト提携ではビャクダン目に属していたが、APG植物分類体系では「分類未確定」になっている。寄生性の植物からなる一群である。
[編集] 概要
ツチトリモチ科の植物は、他の植物の根に寄生する植物である。茎は塊状となり、地上へは花序だけが顔を出す。葉はないか、あるいは鱗片状に退化する。植物体は葉緑素を持たず、全体に黄色又は赤い。花序は肉穂花序で、丸いか楕円形の頭のような部分の表面に多数の小さな花をつける。花は両性か雌雄異花で、どちらもごく簡単な構造になっている。雄花は花弁があるものもあるが、雌花はほとんど雌しべのみといった姿である。
[編集] ツチトリモチ
標準和名をツチトリモチとする種は、本州(紀伊半島)から琉球列島までの山地の森林内で見つかる。宿主であるハイノキの根を抱くようにして地下に塊状の茎があり、秋の終わりに花茎が地上に顔を出す。花茎は太くて短く、多数の鱗片状の葉に包まれる。花茎も鱗片も花序と同様に真っ赤である。その先端に楕円形の花序がつく。花序は大きさが鶏卵ほどで、表面は細かい粒状のもので覆われ、赤い。ちょうど、ヤマモモの果実を大きくしたような感じである。この粒子は花ではなく、花穂の表面から突出した球状の構造である。これが互いにほぼ密着するように並んでおり、花序の外見はこれが並んだ状態が見えるだけである。花はその突起の間の隙間に並んで生じ、外からは見えない。花はすべて雌花で、単純な形の雌しべのみからなる。雌花ばかりなので、雌雄異株であることになるが、雄株は発見されたことがない。したがって種子は単為生殖によって作られる。
なお、和名のツチトリモチは、根茎から鳥黐を取ったことにちなむ。別名に山寺坊主というのがある由。
[編集] 近似種
ツチトリモチ属には世界で約80種が知られ、アジア、マレーシア、マダガスカル、オーストラリア、ポリネシアに分布する。
ツチトリモチは日本固有種であるが、屋久島、奄美などに別種とされる近似種がある。
ミヤマツチトリモチは温帯性の種で、本州(秋田県・岩手県以南)から九州までの山地に分布し、カエデなどの根に寄生する。花穂はやや細長く、黄色味を帯びる。
キイレツチトリモチは、全体が黄色で、花穂はやや細長い。雌雄同株で、同じ花穂に雄花と雌花がつく。穂全体には雌花が密生するが、全体にまばらに雄花が交じる。雄花は三枚の花びらがあって、はっきり分かる大きさをしている。したがって、外見上は塊の上に花が散らばったような姿になる。ほとんど一年生である。九州から琉球列島まで分布する。名前ははじめて発見された鹿児島県喜入町にちなむ。なお、鹿児島市吉野町磯の生育地は国指定の天然記念物となっている。
リュウキュウツチトリモチは沖縄諸島、八重山諸島の海岸林に生育し、クロヨナやオオバギ、リュウキュウガキに寄生する。花穂は肉色からピンク色に近く、花序は短くてほぼ球形をしている。雌雄同株で、同じ花穂に雄花と雌花が一緒につくが、雄花は花序の基部を取り巻くようにつく。雄花の花被は四枚で、成熟後に反り返る。雄しべは四つあるが、互いに寄り合うので花びらの真ん中に雄しべが一つだけ突き出しているように見える。花期は12月-1月で、場所によっては森林の地表に一面に姿を見せる。
ツチトリモチ科 Balanophoraceae
- ツチトリモチ属 Balanophora
- ツチトリモチ B. japonica Makino
- ヤクシマツチトリモチ B. yakushimensis Hatsu. et Masam.
- ユワンツチトリモチ Balanophora yuwanensis Agusawa et Sakuta
- ミヤマツチトリモチ B. nipponica Makino
- キイレツチトリモチ B. tobiracola Makino
- リュウキュウツチトリモチ B. kuroiwai Makino