ヒストン
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ヒストン (histone) は、真核生物のクロマチンを構成するタンパク質の一群。強い塩基性のタンパク質であり、酸性の DNA との高い親和性を示す。DNA を自身に巻き付けてコンパクトにする役目を持つ。
主に、5種類のヒストン(H1, H2A, H2B, H3, H4)が知られている。このうち、H2A、H2B、H3、H4の4種は、コアヒストンと呼ばれ、それぞれ二分子があつまりヒストン八量体(ヒストンオクタマー)を形成する。一つのヒストンオクタマーは、約 146 bp の DNA を左巻きに約1.75回巻き付ける。この構造はヌクレオソームと呼ばれ、クロマチン構造の最小単位である。H1 はリンカーヒストンと呼ばれ、ヌクレオソーム間の DNA に結合する。
ヌクレオソームヒストンは進化的に非常に強く保存されており、いずれのアミノ酸に突然変異が起こっても、致死または強い異常の原因となる。特に H3 と H4 は最も保存されている。H1 ヒストンはこれらに比べると多様性が大きい。有核赤血球には H1 の代わりに H5 がある。
DNA とヒストンの複合体は転写に対して阻害的に働く。転写が活性な遺伝子座の染色体では、ヌクレオソームが緩んだり、ヒストンが解離していることが知られている。それらの部位はヌクレアーゼに対する感受性が高くなっている。ヌクレオソームヒストンの構造は球形のカルボキシル末端と、直鎖状のアミノ末端(ヒストンテール)からなっている。ヒストンテールのリジンやアスパラギン残基はアセチル化、メチル化、リン酸化、ユビキチン化といった化学修飾を受けることが知られている。例えば、細胞分裂の際には、ヒストンH3の10番目に位置するセリンが特異的にリン酸化される。このセリンは酵母からヒトまで多くの動物種で保存されている。これらの化学修飾は、遺伝子発現等、数々のクロマチン機能の制御に関わっていることが証明されつつある。複数の修飾のコンビネーションがそれぞれ特異的な機能を引き出すという仮説は、ヒストンコード仮説と呼ばれている。