ビスマルク級戦艦
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ビスマルク(Bismarck)級戦艦とは シャルンホルスト(Scharnhorst)級巡洋戦艦に引き続き、ドイツ海軍が第二次世界大戦中に竣工させた最初にして最後の超弩級戦艦である。
本級はフランス海軍のダンケルク級戦艦への対抗の大本命であり、当初は「13インチ砲8門搭載で速力30ノット以上、基準排水量35,000トン」を目的として設計され、設計期間短縮の為に第一次世界大戦時に設計されたバイエルン級超弩級戦艦の設計を流用した経緯はシャルンホルスト級と同一である。この為「新しい旧式艦」といわれることもある。
主砲口径は当初は13インチであったが、徐々にサイズアップされて14インチ砲8門となった。15インチ砲搭載案も検討されたのだが、重量増加に伴う港湾の深度不足やキール運河の幅の問題により排水量の増加は好ましくないとの判断で14インチ砲戦艦として設計が進められた。後に、15インチ砲製造が可能になり、新技術の開発により排水量増加も抑えられると解り、又フランス・イタリアが次期主力艦の主砲口径は15インチを採用との情報も入った為に15インチ砲を積む事になり、基準排水量は45,000トンにまで膨れ上がったが、諸外国には35,000トン戦艦として押し通した。
外観は低く、デザインの重厚な美しさでは定評のあるドイツらしく、どっしりとした安定感をかもし出している。船体は平甲板型で、艦首から新設計の「1934年型38.1cm(47口径)砲」を装備した1、2番主砲塔を背負い式に2基搭載、主砲塔を組み込んだ箱型航海艦橋上の司令塔天蓋部には7m副測距儀があり、航海艦橋両脇には耳のような見張り台を全幅一杯に張り出している。航海艦橋の上には戦闘艦橋があり天井に10.5m主測距儀(ダンケルク級戦艦のと基線長は互角である)が装備されている。1番煙突の両脇には水偵や艦載艇を運用する為の梯子形状のクレーンを腕のように生やしている。煙突と単脚後檣の間には首尾線方向と垂直に伸びたカタパルトがあり左右どちらでも射出が可能であった。後檣の背後には後部7.5m副測距儀がある。その後に3、4番主砲塔を背負い式に2基配置した。
副砲はシャルンホルスト級からドイツ大型水上艦に採用された「1928年型15cm(55口径)砲」を採用し、連装砲塔を航海艦橋左右に1基ずつ、残り4基をカタパルトを挟んで舷側寄りに片舷2基ずつ計6基装備し前方へ8門、後方へ4門指向できた。その他に対空用に「10.5cm(65口径)砲」を連装砲架に8基計16門を副砲塔よりも一段高い場所に片舷4基、「3.7cm(83口径)対空砲」を連装で8基16門を装備した。
防御要領は第一次大戦型の防御様式からさほど進化はしていない。水平防御は原案よりは若干強化はされているものの、第一甲板水平面は25mm、主甲板80mmと、合計しても105mmと列強新戦艦と比べると弱かった。舷側装甲に接続する傾斜部は第一甲板は50mm、主甲板は110mmであったが、『大口径砲による大落下角砲弾もしく高度からの水平爆撃』には充分ではなかった。防御装甲は水線面より上の短い範囲のみ320mmの装甲板で覆われそれより上部は145mmの装甲で覆われた。水線面下部は170mmだが、それさえも上下幅が短く、水中弾や深度魚雷への防御は考えられていなかった事が後に本級のウィークポイントとなる。船体内部の対水雷防御配置は各国独自の技術が施された。バイエルン級の時代では石炭庫が衝撃吸収充填材の役目を演じたが、重油を使用する近代戦艦ではその手は使えず、間隔の開いた四つの空間に分け、その背後に45mmの装甲を艦底面まで伸ばしてお茶を濁している。艦底面は二重底であった。
ドイツ大海艦隊を作り上げた設計人は既に無く、経験の浅い若手士官が先人の遺産をどうにか使えるように手直しするしか無かった努力は評価できるが、いかんせん新時代の戦闘艦として纏め上げる技量が絶対的に足りていなかった点が残念な艦級であった。
[編集] 性能
- 水線長:251.0m
- 全長:241.55m
- 全幅:36.0m
- 吃水:9.3m(基準排水量時)、10.2m(満載排水量時)
- 基準排水量:39,517トン
- 常備排水量:45,451トン
- 満載排水量:49,406トン
- 兵装:38.1cm(47口径)連装砲4基、15cm(55口径)連装砲6基、10.5cm(65口径)連装高角砲8基、37mm(83口径)連装機関砲8基、20mm(65口径)4連装機関砲2基、20mm(65口径)単装機関砲12基 (1941年5月時)
- 機関:ワーグナー式高圧重油専焼缶12基+ブラウン・ボベリー式ギヤード・タービン3基3軸推進
- 最大出力:138,000hp(標準蒸気圧時出力)、150,170hp (高加圧時出力)
- 航続性能:16ノット/9,280海里、19ノット/8,525海里、24ノット/6,640海里、28ノット/4,500海里
- 最大速力:30.8ノット(公試時)
- 装甲
- 舷側装甲:320mm(水線面上部)、145mm(第一甲板舷側部)、170mm(水線面下部)
- 甲板装甲:110mm
- 主砲塔装甲: 360mm(前盾)、220mm(側盾)、320mm(後盾)、130mm(天蓋)
- 副砲塔装甲: 100mm(前盾)、80mm(側盾)、40mm(後盾)、40mm(天蓋)
- パーペット部:340mm
- 司令塔:350mm(前盾)、350mm(側盾)、200mm(後盾)、220mm(天蓋)
- 航空兵装:アラドAr196A-3水上偵察機4機
- 乗員2,092名(1941年時)