ビブラート
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ビブラート(イタリア語: Vibrato)とは、演奏・歌唱の際に、ある音を伸ばしながらその音を基準に声を震わせることである。
一般に、音量を変えるビブラートと音程を変えるビブラートの二種類に分けられる。音程を変えるビブラートは、基準の音より高い音との間で震わせるものと、低い音との間で震わせるものの2種類に大別できる。それぞれに明瞭な境界線を引くことは難しいが、人間の耳は基準音を中心に音を上げ下げすると、より高い音の方を感じやすいために音程が不安定に聞こえる。そのため、基準音と低い音の間で震わせるのが一般的である。
- バイオリンやビオラでビブラートを出すためには、奏法の一つであるビブラート奏法を使う。手首は動かさず肘から指全体を動かす、肘は動かさずに手首を動かす、指の第一関節をわずかに動かす、の三種類の奏法がある。
- コントラバスでは、指先と肘を支点にして手首を上下に回すようにしてビブラートをかける。
- 管楽器の多くでビブラートを出すためには、腹筋を使い呼気を調節するか、アンブシュア(アムブシュア、アンブッシャ。吹奏するときの口の形)を変える方法が一般的である。しかしビブラートの方法は、各楽器の機構や奏者に依存するため一概には言えない。
- 金管楽器では、ビブラートをかける音のひとつ上の倍音列にある音との間でトレモロをするとシェイクという奏法になる。ひとつ上の倍音列にある音を控えめにシェイクすると、ビブラートに近い効果が得られる。ビブラートをかけながら、ビブラートの幅をだんだん大きくしていくと自然にシェイクに移行する。ジャズなどでは、このような奏法も行われる。
- ちりめんビブラートと呼ばれる、細かく痙攣するようなビブラートもあるが、こちらはあまり良いビブラートとは言えない。
- 声楽、特に日本の合唱界においては、よく「あの合唱団はビブラートが多いからだめ」というように否定的に語られるが、実際はトレモロが、ビブラートと混同されているのである。
日本耳鼻咽喉科学会による定義 ビブラート(震音) 人間の声は定常的な持続発声を行っても、その高さと強さに多少の変動がある。この変動が規則的でしかもある範囲のものであると、聴覚印象的に音の響きは豊かで望ましいものとなる。このような音声の変動現象をビブラートという。その範囲は、例えば高さの変動分では、声の高さによって異なり、低い音では1秒間に3~5周期程度、高い音では6~10周期程度が好ましいという。 トレモロ(顫音) 定常的な発声をしようとした場合、その声の高さと強さに、不規則なしかも大きい変動(その範囲がビブラートの場合より大きく、一般に不規則である)を伴う現象をトレモロという。
「日本耳鼻咽喉科全書」によると、トレモロとビブラートの違いは多くの場合、前者には不快感、不安定感があり、後者は美的効果があり、快感を与えることが条件であり、不快感の原因は、声の高さ、強さ、音色の変化が不規則、変化の回数が少なすぎる、逆に多すぎる、高音の動揺が著明すぎ、聴き手に焦燥感、不安定感を与える、と書いてある。
和声を突き詰め、美しいハーモニーの実現を目指すのならば合唱団はノンビブラートを目指すべきかもしれないが、人間の声は本来ビブラートを備えたものであり、それを徹底的に排除した声は時として非常に感情の無い、無機的な、非人間的なものに聞こえる。 優れた声楽家はビブラートの揺れをコントロールすることもできる。