プロテアソーム
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プロテアソーム (proteasome) はタンパク質の分解を行う巨大な酵素複合体である。真核生物において、ユビキチンにより標識されたタンパク質をプロテアソームで分解する系はユビキチン-プロテアソームシステムと呼ばれ、細胞周期制御、免疫応答、シグナル伝達といった細胞中の様々な働きに関わる機構である。この「ユビキチンを介したタンパク質分解の発見」の功績によりアーロン・チカノーバー、アブラム・ハーシュコ、アーウィン・ローズの3人が2004年ノーベル化学賞を受賞した。
プロテアソームは全ての真核生物が有しているが、原核生物では一部の種がその原型となるものを有するのみである。本稿では主に真核生物のプロテアソームについて解説する。
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[編集] 26Sプロテアソーム
26Sプロテアソームはプロテアーゼ活性を有する筒状の20Sプロテアソームに、その蓋(ふた)のような役割を果たす19S複合体が2つ結合したものである。「ダンベル型」と呼ばれることもある。
- 20Sプロテアソーム (CP:core particle)
- 20Sプロテアソームはα1~7の7分子から構成されるαリングと、β1~7の7分子から構成されるβリングが、αββαの順に積み重なった筒状構造をしている。空洞になった部分はタンパク質分解の場となっており、β1、β2、β5がその触媒活性を発揮する。通常20Sプロテアソーム単体の状態ではαリングが閉じており、基質が中に入ることはできない。
- 19S複合体 (RP:regulatory particle, PA700)
- 筒状の20Sプロテアソームの両端に結合し、蓋のような役割を果たす。19S複合体は更にbase(基部)とlid(蓋部)に分けられる。baseは Rpt1~6とRpn1~2の計8分子のタンパク質から構成され、20Sプロテアソームのαリング開口制御、標的タンパク質のアンフォールディングに関わっている。lidはRpn3,5~9,11,12の計8分子のタンパク質から構成されており、脱ユビキチン化反応に関わっている。また、baseとlidのつなぎ目にはRpn10サブユニットがあり、蝶番的な役割並びに標的タンパク質の認識・捕捉に関わっている。
[編集] 免疫プロテアソーム
ウイルス感染などによりIFNγが産生されると、これに応答してβ1i、β2i、β5iの3種類のサブユニットが誘導される。これらは20Sプロテアソームのβ1、β2、β5と入れ替わり、すなわちプロテアーゼ活性部位がそっくり入れ替わり、免疫プロテアソームと呼ばれるプロテアソームを形成する。
また、IFNγはPA28(proteasome activator) 複合体を誘導する。このPA28複合体は19S複合体と同様に20Sプロテアソームと結合する。分解されたペプチド断片の排出を促進することがその役割と考えられており、19S複合体-20S免疫プロテアソーム-PA28複合体の3つにより形成されたプロテアソーム(ハイブリッドプロテアソーム)はMHCクラスIにより抗原提示される際に都合の良いペプチド断片を生じると考えられている。
[編集] ユビキチン-プロテアソームシステムの大まかな流れ
- 標的タンパク質がユビキチンにより標識される。詳しくはユビキチンを参照。
- 標的タンパク質に結合したユビキチン鎖が19S複合体に結合する。
- 標的タンパク質からユビキチン鎖を切り離す。切り離されたユビキチンは再利用される。
- 標的タンパク質の立体構造を解き(アンフォールディング)、20Sプロテアソーム内に送り込む。
- βリング内部のプロテアーゼ活性により標的タンパク質は分解される。
[編集] 原核生物におけるプロテアソーム
原核生物は真核生物のような系を持たない。一部の種が20Sプロテアソームの原型のみを有しているが、欠損しても通常の生育・増殖には影響がないとされている。
[編集] プロテアソーム阻害による癌治療
26Sプロテアソームを阻害するボルテゾミブ(ベルケード:VELCADE)が、血液癌である多発性骨髄腫に有効であることが報告され、骨髄腫治療薬として臨床応用されている。