ヘイケガニ
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ヘイケガニ | ||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||
Nobilum japonicum japonicum | ||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||
Heikegani |
ヘイケガニ(平家蟹・学名Nobilum japonicum japonicum)は、エビ目・カニ下目・ヘイケガニ科に分類されるカニ。日本近海の浅い海に分布する小型のカニで、甲羅の凹凸と平氏にまつわる伝説が知られている。高知ではクモガニと呼ぶ。
甲幅は2cmほどで、全体的に横に平たい、褐色の小さなカニである。メスのはさみは小さいが、オスでは片方が大きい。はさみを除いた4対8本の脚のうち、後ろ2対(2番目と4番目の脚とする説もある)は小さなかぎ状になっている。このかぎ状の脚で二枚貝の貝殻や海綿などを背負い、身を隠す習性がある。また、長い脚で水をかいて泳ぐこともできるが、このときは腹部を上に向けて「背泳ぎ」をする。
甲羅は筋肉がつながる位置でくっきりした溝を作り出して各区域を仕切っており、上から見ると目の吊りあがった人の顔に見える。 このため壇ノ浦の戦い(1185年)で敗れて海に散った平氏の無念をなぞらえた「平氏の亡霊が乗り移ったカニ」という伝説が生まれ、食用でないにもかかわらず有名なカニとなっている。
瀬戸内海、九州、朝鮮半島、中国北部に分布し、浅い海から水深100mくらいまでの、貝殻が多い砂泥底に生息する。海岸ではあまり見かけないが、底引き網などによくかかる。
[編集] 甲羅の模様の人為選択説
ヘイケガニの甲羅の溝が怒った人間の顔に見えることは、明治時代から幾人かの科学者の興味を呼び起こしてきた。 1952年に進化生物学者ジュリアン・ハクスレー (Julian Huxley) はライフ誌でヘイケガニを取り上げ、この模様が偶然にしては人の顔に似すぎているため、人為選択による選択圧が作用したのではないかと述べている[1]。 この人為選択説では甲羅の模様の成因を、それが顔に似ている程、人々が食べることを敬遠し、カニが生き残るチャンスが増えたため、ますます人の顔に似て来たのだと説明する。
1980年に天文学者カール・セーガンも、テレビ・シリーズ『コスモス』と同名の著書の中でこのヘイケガニの人為選択について取り上げている[2]。 また、甲羅の模様が平氏の亡霊が乗り移ったという伝説が選択に作用しているならば、その伝説が色濃い瀬戸内海、特に壇ノ浦に近いところほど、漁師がこのカニを捕まえるのを嫌がったかもしれず、そうすれば壇ノ浦からの距離が近いほどより人間の顔に近い模様になっているのではないかという仮説を提唱した。
この説については甲殻類学者酒井恒が著書『蟹 — その生態の神秘』の中で触れており、ヘイケガニやその近縁種は日本以外の北西太平洋にも分布し人の顔に見える特徴は変わらないこと、化石の段階で既に人間の顔をした模様が認められること、ヘイケガニは食用にならないため捕獲の対象とされないことなどの理由で否定している[1][3]。
[編集] 近縁種
サメハダヘイケガニ Paradorippe granulata
- 甲幅2.5cmほど。ヘイケガニに似るが、名前のとおり体がザラザラしている。また、オスのはさみの上面に毛がある。福島県いわき市周辺では、貝殻を被った姿を股旅姿に見立ててサンドガサと呼ぶ。
キメンガニ Dorippe frascone
- 甲幅3.5cmほどで、東京湾以南の西太平洋とインド洋に分布する。甲羅には人面に似た凹凸に加えて、毛やイボ状突起がある。さらに複眼の横に角のような突起もあり、名のとおり「鬼面」といえる。
[編集] 参考文献
- ^ a b Martin, J. W. (1993). "The Samurai Crab" (pdf). Terra 31 (4): 30–34.
- ^ カール・セーガン (1980:1984).コスモス 上巻. 朝日新聞. ISBN 4022602694.
- ^ 酒井恒 (1980).蟹 — その生態の神秘. 講談社.