ポリフェニレンスルファイド
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ポリフェニレンスルファイド(Polyphenylenesulfide‐PPS)は、ベンゼン環と硫黄原子が交互に結合した単純な直鎖状構造を持つ、結晶性の熱可塑性樹脂に属する合成樹脂。繊維・フィルム成形用を除けば、ほとんどの使用例においてフィラー強化グレードが用いられている。CAS番号9016-75-5。
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[編集] 製法
[編集] フィリップス・ペトローリアム法
アミド系溶媒中で、p-ジクロロベンゼンと硫化ナトリウム(硫化ソーダ)を200~290℃の高温高圧下でメチルピロドリン反応により重縮合させる手法。極性触媒を利用する。製造プロセスにおいては、水酸化ナトリウムと硫化水素ナトリウムを反応させ硫化ナトリウムを製造する前駆工程を併設しているものが多い。
- NaOH + NaHS → Na2S + H2O
- n Cl−C6H4−Cl + n Na2S → [−C6H4−S−]n + 2n NaCl
アメリカのフィリップス・ペトローリアムが開発し特許を取得した製法で、テキサス州にて最も早く工業化された後、一般的に用いられる手法となった。
[編集] Macallum法
ジクロロベンゼンと硫黄と炭酸ナトリウムとを摂氏300度下で重合する方法。直鎖構造内のベンゼンと硫黄の比率を合わせる制御が難しく、工業化されていない。
[編集] ダウ・ケミカル法
p-ブロムチオフェニレン金属塩を自己縮合させて重合する手法。
[編集] 種類
開発当初、PPSは直鎖状に分子量を高めることが技術的に困難だったため、射出成形に充分な粘度を付与することが出来なかった。しかし、様々な検討が行なわれ、酸素存在下で熱処理を行なうと架橋が進み溶融粘度が高まることが見いだされ、さらに重合系列中に塩化リチウム・有機酸塩・水などを添加すると直鎖状のまま分子量の向上が図れる現象が発見された。現在では、前者は酸化架橋型PPS、後者は直鎖型PPSと区分されている。酸化架橋型は射出成形用に、直鎖型は射出成形用に加え繊維加工やフィルム成形用として用いられている。
[編集] 特徴
- 黒褐色。
- 高い耐熱性を持ち、フィラー充填グレードのHDTは260℃以上。また、高温下での機械的物性の低下が少ない。
- 強度や剛性がきわめて高く、耐磨耗性にも優れる。ただし靭性には劣る。
- 耐薬品性に優れる。200℃以下の温度環境でPPEを溶解させる溶剤は存在しない。
- UL94V-0の難燃性を有する。これは、酸素指数が44と高い上、炎に当たった際に表面が炭化し内部を保護する性質を持つためである。
- 食品安全性が高く、アメリカ食品医薬品局と米国科学財団は食品機器厨房用品や水道飲用水に接触する部分への使用を認可している。
- 流動性が高く、薄肉など成形性に優れる。また成形収縮率も低く、精密な成形が可能。ただし成形時の結晶化度が物性に大きく影響するため、樹脂温度や金型温度の設定など成形条件のコントロールには留意が必要となる。
[編集] 改質
- フィラー強化
- ほとんどの場合フィラー強化がなされ、その種類もガラス繊維・炭素繊維・シリカ・タルク・珪素など多岐にわたる。また、高充填を可能としている。
- アロイ化
- 流動性改良やソリ対策などを目的としたポリマーアロイも多く販売されている。また、フッ素系樹脂とのアロイ化により摺動特性を付与したグレードも販売されている。
[編集] 用途
[編集] 歴史
1888年には樹脂としての存在が確認されていたPPSは、1897年にフランスのP・グリーンベッセがフリーデル・クラフツ反応で合成に成功したが、実用に結びつかずお蔵入りとなっていた。20世紀半ばになってから研究が進み、1973年にフィリップス・ペトローリアムが量産を開始した。1984年に同社の特許が失効してからは、多くの企業が参入し用途開発が一気に進展した。
[編集] 使用例
機械適性の良さから、多くの機械・機構部品に使用される。電気分野ではギヤやコネクタまたは絶縁部品やランプハウジングなど、自動車分野ではバルブやキャブレター部品・燃料系列や油圧ポンプ部品・鏡面加工を施しランプのリフレクターなど、機械分野でも歯車やピストンリングおよびポンプ羽根などに使用される。また、フィルム成形したものは耐熱性からプリント基板に、繊維加工し銀皮膜を施して高周波配線材料や電磁波遮断材料としても利用される。良好な耐薬品性から、塗料や表面保護材に添加し防蝕性を向上させつつ、塗布時の摩擦係数低減を図る充填剤としても活用される。
[編集] 参考文献
- 井上俊英他 『エンジニアリングプラスチック』 高分子学会編、共立出版、2004年。ISBN 4-320-04370-7
- 大井秀三郎・広田愃 『プラスチック活用ノート』 伊保内賢編、工業調査会、1998年。ISBN 4-7693-4123-7