マーズ・ダイレクト
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マーズ・ダイレクト(和訳 火星直行計画)は、1990年代のロケット技術のみで比較的低コストで実現可能な案として提案された火星有人探査計画。この計画は1990年、ロバート・ズブリンとデイビッド・ベイカーの研究報告として提唱された。ズブリンの1996年の著書The Case For Marsにて広く知られるようになった。
火星大気の豊富な二酸化炭素を用い、地球帰還用の燃料を現地調達する、というアイデアが本計画の大きな特徴として挙げられる。
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[編集] 初期提案
この計画では、まず化学工場と小型の原子炉、水素を積んだ無人の地球帰還船(ERV)を、大型のブースター(アポロ計画のサターンV型ほどではない)で打ち上げ、火星に送り込む。
ERVは8ヶ月ほどで火星に到着する。そこでは、比較的簡単な化学反応により、ERVで運んだ少量の水素と火星大気の二酸化炭素を反応させて、112tのメタンと酸素を生産する。そのうち96tは、ミッション最後のERVの地球帰還で使用する。このプロセスは10ヶ月ほどで完了する。
26ヵ月後、2隻目のERVを地球から打ち上げる。火星居住ユニットであり、4名のクルーを火星に運ぶ。この宇宙船は6ヶ月ほどで火星に到着する。旅行の間は、火星居住ユニットと打ち上げで使用したブースターを紐で結び、中心で回転させることにより遠心力による人工重力を発生させる。
火星到着時、使用済みブースター等を放棄し、火星居住ユニットは空力ブレーキによりERVの近くに着陸する。
着陸後、クルーは火星上に18ヶ月滞在する。持ち込んだ機材で科学研究を行い、小さなローバーによって移動する。燃料にはERVの生産した余剰メタンを使用する。
地球帰還の際は、居住ユニットは後の探検家が使用できるようにそのまま残し、ERVを使用する。ERVの推進段は、帰りの旅行で人工重力を発生させる際のカウンターバランスとして使用されるだろう。
マーズ・ダイレクトの初期費用は、当時開発費を含め200億$(2006年現在の300億$~350億$相当)と見積もられた。2004年、NASAとESAは有人宇宙ミッションのコストを見直すため、この試案のコストモデル計算を引き受けた。検討された試案はマーズ・ダイレクトそのままではなかったものの、両者のコストモデルからズブリンとベイカーの見積もりが非常に正確だったことがわかった。
[編集] 修正案
マーズ・ダイレクトの発表後、火星協会・NASA・スタンフォード大学により多くの検討が行われた。
NASAでは、参考計画としてハードウェアに重大な変更(1ミッションに2隻ではなく3隻打ち上げ)を加えた案を提示している。この案では、火星には燃料を十分搭載したERVを送り、火星軌道上で待機、帰還時は小型艇でERVに乗船する。
火星協会とスタンフォード大学の研究員はマーズ・ダイレクトの2隻の計画を保ったまま、クルーを6人に増員した案を提示している。
火星協会は、彼らの火星アナログ研究ステーション(MARS)プログラムで火星居住ユニットのコンセプトの生存能力を証明して見せた。
マーズ・ダイレクトはディスカバリーチャンネルの番組'火星: 次のフロンティア'で、NASAが進めている周りのプロジェクトと一部議論がある中だが、特集もされている。
[編集] マーズ・ダイレクトを扱った作品
マーズ・ダイレクトはグレゴリー・ベンフォードの小説、The Martian Raceの中で使用されている。
また、マーズ・ダイレクトのプランは2000年のディズニー映画「ミッション・トゥ・マーズ」のベースともなっている。