ミックスボイス
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ミックスボイス (mixed voice) は、発声技法の一種であり、また、発声及び歌唱の様式を表す言葉である。
大別して二つの意味がある。
(1)の原語はフランス語のvoix mixteであり、英語のmixed voiceもその訳語のようである。そもそもは胸声区で高い音を出すための技術である。
胸声の最高音域近辺では声門閉鎖が急に弱くなり、音色、音程ともに不安定になる。特に閉鎖がしっかりして呼気の少ない声で高音に移ると、閉鎖が弱まった瞬間に声帯の振動状態も急変し、声が裏返ってしまう。もし始めから閉鎖の弱い声で高音に移ったのであれば声の裏返りは起こりにくい。それを意識的に行い、息を多く流して最低限の声門閉鎖で歌うのがvoix mixteである。 閉鎖が弱いのでフォルテを出すのには全く不向きである。 クラシック音楽では教会音楽を除けば、曲の全体で用いられることは少ない。 よくある女子中高生の合唱などを揶揄していう「弱声発声」や、mezza voce に対していう場合の「sotto voce」も、ミックスボイスに近い声を指す言葉である。
(2)(C5前後の1オクターブのあたりの)高音域を起声がしっかりした話声的な声で歌うことをミックスボイスと呼ぶ人も多い。
意味としては、頭声(ヘッドボイス)、アクート、ジラーレ、ヴォーチェフィンタ、シャウト、フランジリンボイス、ミドルボイスなどの実声で高い声を出す技法を暗に含んでおり、それらの代替用語として使われている。裏声(頭声区)で地声のような音色の特に低い声を出すという解釈(ファルセットインペットに同じ)もある。
(2)の意味で用いる人には(1)の声をミックスボイスではないと感じる人が多い。
1990年代以前はミックスボイスという言葉は一般には知られておらず、一部の音楽家やトレーナーが大体(1)の意味で稀に使用していた。その後インターネットが一般に広まり、2000年代に入った頃から(2)の用法が特に電子掲示板などにより普及した。また、トレーナーの間にもこの用法が増えている。日本に限らず、米国でも同じような状況である。