ミツバチ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ミツバチ | ||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
分類 | ||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||
種類 | ||||||||||||||||||
(本文参照) | ||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||
Honeybee |
ミツバチは、ハチ目(膜翅目)・ミツバチ科(Apidae)・ミツバチ属に属する昆虫の一群で、花の蜜を巣に加工して蓄え、蜂蜜とすることで知られている。世界に9種が知られ、とくにセイヨウミツバチは全世界で養蜂に使われており、24の亜種が知られている。
目次 |
[編集] 種類
- セイヨウミツバチ(学名:Apis mellifera) - ヨーロッパ・アフリカに分布。
- トウヨウミツバチ(学名:Apis cerana) - アジア全域に分布。
- サバミツバチ(学名:Apis koschevnikovi) - インドネシアのボルネオ島に分布。
- キナバルヤマミツバチ(学名:Apis nuluensisi) - インドネシアのカリマンタン(ボルネオ)島に分布。
- クロオビミツバチ(学名:Apis nigrocincta) - インドネシアのスラウェシ島に分布。
- オオミツバチ(学名:Apis dorsata) - 東南アジア・アジアに分布。
- ヒマラヤオオミツバチ(学名:Apis laboriosa) - ヒマラヤ地域に分布。
- コミツバチ(学名:Apis florea) - 東南アジアから西アジアに分布。
- クロコミツバチ(学名:Apis andreniformis) - 東南アジアに分布。
ニホンミツバチ(Apis cerana japonica Rad)はトウヨウミツバチの亜種である。
日本ではニホンミツバチ、セイヨウミツバチの2種が飼育され、養蜂に使われる。また、作物の受粉にも用いられるが、ミツバチは蜜を出さず、特殊な振動採粉をする一部のハナバチしか受け付けないナス科の果菜類の受粉には役に立たない。そのため、トマトやピーマンなどの受粉用にはミツバチではなくマルハナバチ(ミツバチ科マルハナバチ属)が使われる。
ミツバチの天敵としてアジアだけに生息するオオスズメバチがいる。アジアで進化したトウヨウミツバチはオオスズメバチへの対抗手段を獲得した。巣の中に侵入したオオスズメバチを大勢のミツバチが取り囲み蜂球とよばれる塊をつくる。蜂球の中では約20分間の間に体温を上げて摂氏45度前後の熱を発生させる。このため、ミツバチに比べ熱に弱いオオスズメバチはこの蜂球による熱で死んでしまう。オオスズメバチのいない地域で進化したセイヨウミツバチはこのような対抗手段を獲得していない。
他には、直接ミツバチを襲うわけではないが、養蜂家からスムシ(巣虫)と呼ばれ嫌われるハチノスツヅリガ等の蛾の幼虫は、蝋を原料とした巣を食べて成長する事から、多くのスムシに寄生された巣は全滅する事もある。
古くから使われていたニホンミツバチに比べより多くの蜜を採集するセイヨウミツバチが1877年に導入された。セイヨウミツバチは繁殖力も旺盛なことから野生化しニホンミツバチを駆逐してしまうのではないかと言われた。実際養蜂のためにセイヨウミツバチを導入した北米では野生化している。しかし日本ではオオスズメバチの存在があり、セイヨウミツバチの致死温度はニホンミツバチより低いため蜂球が作れず、抵抗しようがないため、現在まで一部の地域をのぞき野生化は確認されていない(小笠原諸島ではオオスズメバチが生息していないため、セイヨウミツバチが野生化して問題になっている)。
ニホンミツバチの野生集団を人工巣に誘導して蜂蜜を取ることも行なわれている。
蜂球 | ||
---|---|---|
左:巣口周辺を飛び回るキイロスズメバチと腹部を反り上げ翅を震わせるニホンミツバチ。 中:ニホンミツバチによる蜂球。中では2匹のキイロスズメバチが蒸されている。 右:約1時間後の「中」と同じ場所。蜂球は解体され、蒸し殺されたキイロスズメバチの遺骸が見える。 (いずれも2005年7月 横浜市内) |
ミツバチのオスを指す英語droneは「なまけもの」を意味する。これはメスである働きバチが花粉や蜜を集めに出かけたり、巣の中を掃除したり、幼虫の世話をしたり、と非常によく働くことと対比してこのように呼んでいると考えられる。ミツバチのオスは羽化一週間後ほど経つと、女王バチと交尾するため、晴れた日を選んで外に飛び立つ。
ある一定の範囲の空中に、たくさんのオスバチが集まって飛んでいると、その群れの中へ女王バチが飛び込んできて交尾をおこなう。
[編集] 蜜の採集
ミツバチは蜜源を見つけると巣内の垂直な巣板の上でダンスを行い、仲間に蜜源の方向と距離を伝える。これは本能行動の例としてたびたび使われる。ミツバチのダンスは、蜜源の場所という具体的な情報をダンスという抽象的な情報に変換して伝達が行われるため、記号的コミュニケーションであると考えられている。ミツバチのダンスコミュニケーションを発見したカール・フォン・フリッシュは、高次なコミュニケーション能力が昆虫にもあるという発見が評価され、ニコ・ティンバーゲン、コンラート・ローレンツと共に1973年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
蜜源が近い場合には、体を振るわせながら左右に交互に円形を描く「円形ダンス」をおこなう。
蜜源が遠い場合 (50m-) は「尻を振りながら直進 - 右回りして元の位置へ - 尻を振りながら直進 - 左回りして元の位置へ」という、いわゆる「8の字ダンス(尻振りダンス)」を繰り返す。このとき尻を振りながら直進する角度が太陽と蜜源のなす角度を示しており、真上が太陽を示す。つまり、巣板上で右手水平方向に向かって尻を振るような8の字を描いた場合、「太陽を左90°に見ながら飛べ」という合図になる。また、ダンスの尻を振っている時間が蜜源までの距離を表す。花粉や水の採集、分蜂時の新たな巣の場所決定に際しても、同様のダンスによるコミュニケーションが行われる。
蜜を持ち帰った働きバチは貯蔵係のハチに蜜を渡すが、そのとき貯蔵係は糖度の高い蜜を優先して受け取り糖度の低い蜜を持ったハチは待たされる。このことによってよりよい蜜源へ働きバチを集中的に動員できる。
[編集] 蜂の巣の構造
自然の状態では、ミツバチの巣は巣板と呼ばれる鉛直方向に伸びる平面状の構造のみからなる。ミツバチが利用した空間の形状によっては巣板が傾いていることもある。巣板の数はミツバチの種によって異なる。養蜂に用いるニホンミツバチやセイヨウミツバチは複数枚の巣板を形成し、自然の状態でも10枚以上にのぼることがある。コミツバチなどは巣板を一枚しか作らないため、養蜂には向かない。
ミツバチは巣板を防御する構造物を自ら作り出すことはせず、家屋の隙間や床下、木のウロなどもともと存在する外壁を利用する。都市部では巣板がむき出しになった巣も存在する。
巣板は中空の六角柱が平面状に数千個接続した構造である。このような構造をハニカム構造(honeycomb、蜂の巣の意)と呼ぶ。強度に優れ、材料が最少で済むという特徴がある。六角柱は厚さ約0.1mmの壁でできており、奥行きは10~15mmある。底部は三角錐である。六角柱の成分はロウ状の物質(蜜蝋)である。ミツバチの腹部にある蝋腺から分泌された蜜蝋を噛み砕いたものが材料である。
なお、蜜蝋自体は食品とはならないが、ワックス、油絵の具などのメディウム(薄め液)、石鹸、クリーム、蝋燭などの原料として利用される。
[編集] ローヤルゼリー
- ゲノム解析により、女王蜂と働き蜂のゲノムに違いがないことが明らかになった。ローヤルゼリー(ロイヤルゼリー)と呼ばれる働き蜂の咽頭腺からの分泌物を与えられたメスが女王蜂として成長する。どのメスの幼虫も普通に女王蜂になる素質を持っているのだが、このローヤルゼリーを食べた幼虫だけ体長が大きくなることや、優れた繁殖能力を持つことが出来るようになる。
[編集] 雑学
- 日本で現在使用されている20円切手のデザインのモデルにもなっている。
- 小説『みつばちマーヤの冒険』(蜜蜂マアヤ)(ボンゼルス著。アニメ化もされた)は、擬人化したお話ではあるが、スズメバチがミツバチを襲うなど、実際の観察に基づいた設定がなされている。
- シャーロック・ホームズシリーズでは、ホームズは探偵引退後の仕事として養蜂家となり、著作も物したことになっている。これは、この50年ほど前に近代養蜂に関する体系的な著書がアメリカ人ラングストロスにより発表されたことが反映されている。