ミトラ教
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ミトラ教またはミトラス教 (-きょう,英語:Mithraism) は、インド・イランの古代よりの神話に共通する、太陽神ミトラ(ミスラ)を主神とする宗教である。ヘレニズムの文化交流を通じて、地中海世界に入り、主に、ローマ帝国治下で、紀元前1世紀より5世紀にかけ、大きな勢力を持つ宗教となったが、実体については、不明な部分が多い。
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[編集] ローマ帝国治下のミトラス教
ローマ帝国の領土において広範に流布した宗教は、ミトラス教と呼ばれており、初期キリスト教と、ローマ帝国の国教の地位を争ったほどに古代のおいては優勢な宗教であった。しかし、キリスト教の勝利と共に忘却され、近代になって、フランツ・キュモンが、ローマ帝国時代の遺跡の碑文を丹念に蒐集し、ミトラスに関する記述に基づいて研究を行った。(この神は、ラテン語では、Mithras であり「ミトラス」と表記するのが妥当であるが、キュモンはフランス人であったので、フランス語読みで「ミトラ」となり、「ミトラ教」とも呼ばれる)。
キュモンの研究により、古代の大宗教であったミトラス教の存在が、再び明らかになったが、古代ローマのミトラス教は、「密儀宗教」の面が強く、その実体については、未だによく分かっていない。
[編集] アーリア人の神ミスラ
元々、ミトラス神は、アーリア人の古い神話に登場する光明の神であり、イランの『アヴェスター』においても、インドの『リグ・ヴェーダ』においても登場する有力な神であった。ゾロアスター教でも、ミトラは中世ペルシア語でミフルヤズドと呼ばれ、重要な役割を持ち、多数の神々のなかでも特殊な位置付けであった。
ミトラに対する信仰というものは当然存在したが、ミトラを主神とする、ミトラ中心の宗教が存在したのかどうか、学問的に確かなことが分からない。
[編集] 仏教の弥勒信仰
仏教には、弥勒菩薩が存在し、「弥勒信仰」がある。この弥勒は、サンスクリット語ではマイトレーヤというが、マイトレーヤとは、ミスラの別名である。またはミスラから転用された神名であり、仏教では菩薩として受け入れられ、マイトレーヤを軸とした独特の終末論的な「弥勒信仰」というものがある。
[編集] マイトレーヤ信仰とミトラ教
仏教の弥勒信仰以外にも、イランやインドでは、ミトラ信仰があり、マイトレーヤ信仰があったことは分かっている。マイトレーヤ信仰または弥勒信仰が、中国に伝わり、独特な宗教を構成したとする考えも、かなりな歴史的妥当性を持って確認できる。
しかし、仏教のなかの弥勒信仰であり、またインドにしてもイランにしても、それぞれの伝統宗教を背景としたミトラ信仰であり、マイトレーヤ信仰であった。ローマ帝国治下のミトラス教は、独立した宗教であったことは明らかである。しかし、メソポタミア、イラン、インド、西域、中国などにも流布されたとされる「ミトラ教」とは、どのような宗教であったのか、独立した宗教として捉えてよいのかどうか、疑問の余地がある。
[編集] クリスマスとミトラ教
12月25日はイエス・キリストの誕生日としてキリスト教の祭日となっている。しかし、実際にはイエス・キリストがいつ生まれたかは定かではなく、12月25日をクリスマスとして祝うのは後世に後付けされた習慣である。聖書にもイエス・キリストが生まれた日付は記述されていない。
前述のローマ帝国時代において、ミトラ教では冬至を大々的に祝う習慣があった。これは、太陽神ミトラが冬至に「生まれ変わる」という信仰による。(短くなり続けていた昼の時間が冬至を境に長くなっていくことから)
この習慣をキリスト教が吸収し、イエス・キリストの誕生祭を冬至に祝うようになったとされる。
[編集] 参考書籍
- フランツ・キュモン 『ミトラの密儀』 平凡社
- 小川 英雄 『ミトラス教研究』 リトン