九章算術
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九章算術(きゅうしょうさんじゅつ)とは現存する最古の古代中国の数学書。九章からなるいわゆる問題集形式の数学書である。著者はわかっていなく、加筆修正を経て次第に現在に伝わる形に完成したとされている。研究によると前漢の張蒼や耿寿昌も加筆したことがわかっている。263年に劉徽の註釈本を制作していたことなどから、制作年代は紀元前1世紀から紀元後2世紀頃であると考えられている。
[編集] 構成
九章に分かれており、延べ246個の問題が収められている。 なお、九章算術の名前は九章からなる構成に由来する。
- 方田 - 主に田畑の(年貢のための)面積計算と分数の計算。
- 粟米 - 交換比率の異なる商品を物々交換するための計算。比例算。
- 衰分 - 商品とお金との分配。比例按分。利息計算。
- 少広 - 面積体積から辺の長さを求める。平方根や立方根。
- 商功 - 土石の量などを求める土木計算。体積。
- 均輸 - 租税の計算。複雑な比例問題。
- 盈不足 - 鶴亀算。復仮定法。
- 方程 - 連立一次方程式。
- 句股 - ピタゴラスの定理に関する問題。
[編集] 影響
九章算術には周の以来の頃までに解決した古代中国の数学問題と、漢の時代の最新の数学問題が収められている。九章算術は内容の量と質の良さから古代中国の中心的な算書として用いられ、古代中国の数学史において数学体系を完成させた本であるとされている。この九章算術の影響は清の中期頃の西洋数学が入って来るまで続いた。ただ、現代中国においても算数の教科書のコラムで九章算術の記述に言及している。
九章算術は問題を出し解法と答えを出す帰納的なアプローチである。具体的には問題の記述の後、「答曰く、」ではじまる答えと、「術曰く、」ではじまる解法の記述という具合である。演繹的な手法の西洋数学とは異なり、中国の以後の数学書(及び日本の数学書)はこの記述方法を採った。歴史上この本を註釈した数学者は多くいて、劉徽と李淳風による註釈本は有名である。例えば、九章算術の原本では円周率を3として扱っているのに対して、劉徽は 3.14+64/62500< π <3.14+169/62500 であり近似値として3.14を使うのがよいと註釈をしている。なお、この当時(3世紀頃)の世界最高精度で円周率を求めたことになる。なおこの記述方式は日本にも輸入され、和算の書籍や算額なども「答曰く、」や「術曰く、」を含むスタイルで書かれている。
中国では科挙試験の数学に採用されたため、官吏の試験勉強のためにも用いられた。また、日本では、大宝律令では算博士という官吏には九章算術をはじめとした中国の算書の知識が要求された。
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