京鹿子娘道成寺
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京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)は、歌舞伎舞踊の演目のひとつ。また、その伴奏音楽である長唄の曲名。京鹿の子娘道成寺とも書く。なお「京鹿子」は外題としての体裁を整えるため付け加えられたものであり、一般には単に娘道成寺と呼ぶ。
[編集] 概要
能の道成寺に基づく。筋もほとんど同じである。すなわち、道成寺を舞台とした、安珍・清姫伝説の後日譚によっている。
[編集] 構成
全体は道行、問答、長唄に大きく分けられる。
- 第1段 道行 - 花道から花子が登場。音楽は義太夫で、花子の鐘に対する恨みを語る。
- 問答 - 花子と所化が珍問答をする。
- 長唄 - ほとんど白拍子の一人舞台である。音楽は長唄で、出囃子で歌われる。
- 第2段 乱拍子 - 花子が烏帽子を付け、能をまねて踊る。
- 急の舞
- 第3段 中啓の舞 - 歌舞伎らしい踊りとなる。中啓(扇)を持って踊る。歌詞は能の三井寺から取った鐘づくしである。
- 第4段 手踊 - 恋の切なさを娘姿で踊る。
- 第5段 鞠歌 - 少女の鞠つきをまねて踊る。歌詞には遊郭を詠み込む。
- 第6段 花笠踊り - 古い流行歌「わきて節」から取った踊り。赤い笠を持って踊る。
- 合方(チンチリレンの合方)
- 第7段 手ぬぐいの踊り(くどき) - 女の恋心を歌う。
- 鞨鼓の合方
- 第8段 山づくし(鞨鼓の踊り) - 22の山の名前を詠み込む。胸に鞨鼓を着けて踊る。
- 第9段 手踊 - 「ただ頼め」の唄で踊る少女らしい踊り。
- 第10段 鈴太鼓 - 鈴太鼓を手に持って踊る。テンポの速い踊り。田植え歌。
- 第11段 鐘入り - 鐘に取り憑く。
以後はあとから付け加えられたもので、演じられないこともある。
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- 第12段 祈り - 坊主の祈り
- 第13段 蛇体 - 蛇体が現れる。
- 第14段 押戻し - 蛇体が花道に。押し戻しがあって、本舞台に戻る。
[編集] あらすじと見所
安珍・清姫伝説の後日譚である。
清姫の化身であった大蛇に鐘を焼かれた道成寺は女人禁制となっていた。そして永く鐘がなかったが、ようやく鐘が奉納されることとなり、供養が行われることになった。
そこに、美しい花子という女がやってきた。聞けば白拍子だという。鐘の供養があると聞いたので拝ませてほしいという。小僧たちは白拍子の美しさに、舞を舞うことを条件として入山を許してしまう。
花子は舞いながら次第に鐘に近づく。小僧たちは花子が実は清姫の化身であったことに気づくが時遅く、清姫の魔力に翻弄される。とうとう清姫は鐘の中に飛び込む。と、鐘の上に大蛇が現れる。
上記があらすじであるが、構成の章で見た通り作品のほとんどが主役による娘踊りで占められている。つまり、このあらすじは舞踊を展開するための動機と舞台を用意するための設定であって、劇的な展開を期待すると作品の方向性を見失ってしまう。まずは、演者の踊りそのものを鑑賞するのがこの作品の要点である。