他界
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他界(たかい)は、人が死亡した時、その魂が行くとされる場所。あるいは、亡くなった祖先が住まうとされる場所。地域によって山上他界、海上他界と呼ばれるほか、地中他界という考え方もある。これらの他界の種類によって、当然葬儀の制度「葬制」に特徴が表れている(海上他界での水葬、地中他界のなごりの土葬など)。
人は死んだら他の世界に行くという思想は多くの民族に見られる。黄泉、極楽浄土、天国(あるいは地獄)、死者の国などその呼び方は地域や宗教によって多くの種類がある。ヨーロッパの神話、伝説でも冥界、冥府、黄泉の国という考え方は古くからあり、ギリシア神話でもゼウスとその兄弟たちが巨人族との戦いで勝利した後、その支配する世界は、天上界、海、冥府と3分され、冥府はハデスが支配することになった。これは、地下の世界と考えられている。北欧神話でも、ヴァルハラとして登場する。これは戦場で名誉ある死を遂げたものが招かれる場所である。これらに共通しているのは、場所を具体的な「国」として認識している点で、自分の属する「国」と死者が属される「国」に境界線をはっきりと引いている。
なお、現代の日本語では、人が亡くなった事を丁寧に言う表現として、他界へ行ったという意味で「他界(する)」という。
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[編集] 山上他界
日本の昔の信仰では、亡くなった人の魂は山の上の遥か彼方に行ってしまうと信じられており(羽衣伝説の中で、天女の衣を富士山の上で焼いたという一節がある)、そこから、山上他界もしくは山上他界説が生まれた。
亡くなった祖霊の住処である山を囲って霊域(山中他界と言う)として、そこを霊の祀り所として禁忌の場所とした。(恐山などの霊場信仰)
一説には、仏教において寺院の名に「○○山△△寺」と山号を付ける理由は、そこに由来しているとされている。
[編集] 海上他界
九州や南方の島々、或いは瀬戸内地方では、人は亡くなったら海の彼方に行ってしまうと信じられており、こちらは海上他界、海上他界説という。常世の思想、ニライカナイや竜宮伝説は、この海洋信仰の延長線上にあるとも言われている。
平安時代末期から室町時代末期の間に主に紀伊で行われた普陀洛渡海は、この海上他界信仰を基にしている。
[編集] 地中他界
その他に地中他界、地の下はるかに死者の霊魂の眠る国があるという考え方がある。「根の国」、「黄泉」と言われる。日本神話では、イザナギとイザナミの例があるし、ヨーロッパではオルペウス物語や、ヴェルギリウスの『アエネーイス』第6巻にその例がある。『アエネーイス』では、地下界として出てくる。
[編集] 他界への旅立ち
他界は主に、死後の世界であるが、生者が他界へと行って戻って来るという神話、説話が見られる。日本でいえば、古事記にイザナギがイザナミを連れ帰るために、黄泉の国へ行って帰ってくる話が有名。また、この文学的な描写は、20世紀のファンタジー文学の名作『指輪物語』、『ナルニア国物語』に見られる。