偽言語比較論
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偽言語比較論(にせげんごひかくろん)は、合理的あるいは科学的な方法によらずに牽強付会で言語の系統を論ずるものをいう。疑似科学、トンデモ研究の一種。エジプト語、エトルリア語、シュメール語などの古語や近隣に同系の言語が見当たらないバスク語やアイヌ語などが取り上げられやすい。
[編集] 特徴
- 恣意的に選んだ少数の単語に類似があることを証拠とする:同系でない言語でも同じ意味の単語が偶然に似ることはある。日本語の「名前」とドイツ語の「Name(ナーメ)」、「買う」と「kaufen(カウフェン)」は音が似ているが、このことをもって日本語とドイツ語が同系とは結論づけられない。
- 借用語を同系の証拠にする:借用語は発音に対応があるのは当然のことなので比較に用いる単語から除外することになっている。たとえば朝鮮語で1を表す「일」(イル)は日本語の一(イチ)と似ているから朝鮮語と日本語が同系だ、というのは誤りである。(両者共に中国語からの借用)
- 古形、再構形を用いない:日本語の文(ふみ)は中国語の「文」の借用だ、という説がこれにあたる。「ふ」は現代は[ɸu]であるが古代は[pu]と発音された。一方「文」は呉音で「モン」と読むように子音は m であり、p と m では対応しない。また文の末子音は音節末の n と m の区別を残す朝鮮語の「문」にあるように n であり、ふみ= pum + i と想定される m とは対応しない。
- 語順、語形などの類似を証拠にする:同系の言語は文法も類似するが異系の言語でも類似する場合があるので逆が正しいとは限らない。
これらの方法論的問題の他に、次のような特徴も多く見受けられる。
- 主張する内容に合うように疑わしい史実を仮定する:例えば日本列島に渡ってきたドラヴィダ人のドラヴィダ語と先住民の言語が混ざって日本語が出来た、という説がこれに当たる。
- 遠い場所の言語の系統を主張する:バスク語とカフカス諸語が同系ではないかというのがこれに当たる。
ただし、今後新たな歴史的事実が発見される可能性は否定できず、またトカラ語のように他の印欧語から孤立した地域で話されていた言語が同系と証明された例もある。こうした「証拠」が現在主張の補強たり得ないことと、主張が間違っている(例えば日本語とドラヴィダ語、バスク語とカフカス語は同系ではない)と結論づけられることは別であることは意識する必要がある。