ノート:先天性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
重厚な労作お疲れさまでした。ざっと読んで気がついた点を挙げさせていただきます。
- a priori - 経験、実験に先立つ tabla rasaな状態での、という意味から、「験」の字を生かした「先験的な」という訳語が一般的かと思います(ご自身でも後に使われていますね)。
- 「すべての生物は、二重螺旋の染色体」- 一部のウイルスでは一本鎖の核酸が遺伝情報を担っています。尤も、ウイルスが生物か否かは論議があるところです。
- 「精神の気質的部分も、遺伝子による決定と考えられる」 - 一卵性双生児でも、あるいは特定の個人でも生涯の内には気質のぶれが生ずるわけですから、「決定」とまで言ってしまうと単純化し過ぎかと。遺伝的に決定される部分が大きい程度の方が安全かと(人間の精神の他の要素に対して、という暗黙の比較がなされています)。もっといえば、精神作用のうちで遺伝的/身体依存的要素が強い部分を「気質」と称しているのではないかと思ってしまいます。また、関連してとても基本的な点なのですが、遺伝情報が同一でも様々な表現形が現れます(クローン猫の毛の色なんかが有名ですね)。遺伝子は発現させるためにスイッチ操作が必要ですし、転写されたmRNAも様々な修飾を受けることが知られています。そのため、先天性を論議するのに遺伝情報の一義性をあまり強調しすぎると若干古くさい感じがします。
- 「哺乳類になると、子宮内の環境に加えて、胎盤を通じて母胎との栄養や、その他の物質の交流があるため、母胎内での環境のありように応じて、発生過程が影響を受ける。HIV や或る種の疾病は、胎児段階で母体内で感染することがある。またサリドマイドの催奇性事件が示すように、母胎が摂取した薬物が、胎盤を通じて胎児の発生と成長に影響を及ぼすことが知られている。」 - この部分ちょっと構成が乱れていますね。物質交換の話題が感染症の話題で泣き別れになっています。どこまで触れるかも難しいとは思いますが、母体との関係で整理すると、音や温度の影響はおくとして、
- 胎盤を通じた物質交換
- 必要な物質が得られないこと(現代の日本では若いお母さんのダイエットのし過ぎや喫煙による血流量の低下あたりの話題になると思います)
- 胎盤移行性のある食品、薬物、環境ホルモンによる曝露(一番多いのは飲酒でしょうが、話題となったのは環境ホルモンでしょうか。これはお母さんの意思ではコントロールしきれないのが問題です。)
- 母胎内感染
- トキソプラズマ、風疹が現代でも(というか現代だから)問題ですね。
- 垂直感染
- 現代的重要性ではHIVですが、古典的に有名なのは淋病や梅毒、B型慢性肝炎かと。
- 胎盤を通じた物質交換
- 身体における先天性 - 私なら先天性疾患から触れていきます(このあたりは完全なPOVですね)。尤も、先天性疾患は治療や「予防」(=遺伝相談や出生前診断)の話題も重要ですから別の項目に譲る方がいいのはその通りです。あと、脳の男女差ってのは確かに話題になりましたが、男性脳/女性脳ってどこまではっきりしていましたっけ? そこを書かないで男性脳/女性脳と書くと疑似科学のテンプレを貼られることになるかと。また、男女の身体的違いはむしろ脳以外ではっきりしており、外性器はもとより、体格や体重に占める筋肉や脂肪の比率に大きな差があります(から、瞬発力では一般に男性優位です)。そのような一般的な違いから触れるほうがいいのではないかと(そこまで系統だって記述すると、やはり性分化って単独項目になってしまうか)。
Maris stellaさんのお気持ちはわかりますが、全体として、先天的要因の一つに過ぎない(というと叱られるかな)性分化に比重がありすぎかな、というのが気になった点ですね。--NekoJaNekoJa 2006年8月24日 (木) 09:49 (UTC)
- こんにちは、NekoJaNekoJa さん。詳細な感想と御指摘ありがとうございます。元々、こんな長い記事を書く予定も、考えもなかったのですが、マゾヒズムを大幅に書き直していて、先天的という言葉が赤リンクになるので、これを取りあえず記事を造ってと思って取りかかると長いものになったものです。「性分化」の話が出てくるのは当然なのかも知れません(また、ジェンダーとか、男女の先天的・後天的な分化というようなことで記事を最近考えているので、そういう方向に偏って来るのだと思います。生物学や医学は、よく知りませんので、詳しい方が訂正を入れてくださるのを待ちます。詳しく書いていると、もっと長い記事になってくるのではとも思います)。
- 一つのことについて、つまり哲学での用語としては、アプリオリの記事でも、「先験的」という訳語を挙げていましたが、カントの『純粋理性批判』での訳語としては、先天的と先験的は意味の異なる言葉だったはずです。「先天的」は a priori の訳語で、「先験的」は、transzendental の訳語です。トランスツェンデンタールは「超越論的」という訳語が現象学の方であり、こちらの方がよいのですが、カントだと、先験的という訳語が、岩波の文庫本での訳書で使われています。「超越論的(トランスツェンデンタール)」は、「超越的(tranzcendent, トランスツェンデント)」とはまた意味が全然違う言葉で、とかになると混乱して来ますが、実際違う概念です。「ア・プリオリ=先天的・前験的」対「ア・ポステリオリ=後天的・経験的・後験的」という訳語の対があり、「トランスツェンデンタール=超越論的=先験的」と「トランスツェンデント=超越的」の対比があるということになります(哲学が専門ではないので、間違っているかも知れませんが。辞書で調べると、a priori に対し、「先験的」という訳語も当てていますね。ただし、transzendental に対して、カントの用語では、「先験的」となっています。……哲学の用語は、哲学者ごとで違う訳語があったりして分かりにくいです。Dasein は、ハイデッガーの用語で「現存在」のことと考えていますが、ドイツ語では普通に使う名詞で、ヘーゲルでは「定有」であるとか辞書では出ています。日常語を哲学の術語に使うので、哲学者ごとで意味が違ってきて訳語も違うものになるということになります。日本語に訳すときは、「哲学の用語」として造語などして訳すので、元の言語とは感じが違って来るのだと思います)。--Maris stella 2006年8月24日 (木) 13:31 (UTC)