受験数学の理論
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受験数学の理論(じゅけんすうがくのりろん)は大学受験のための数学を取り扱う駿台文庫の本(全11巻・著者は清史弘)である。
通常の参考書のように「数学IA」「数学IIB」「数学IIIC」といった分け方ではなく、「数と式」「図形と式」「微分と積分」のように高校数学で扱う内容を分野ごとにまとめたものである。
この本の最大の特徴は「参考書」というより「教科書」という点にある。参考書の多くは文部科学省が検定した「教科書」(以下「検定教科書」と呼ぶ)の内容をもとにそれを補う形で構成される。例えば、公式などを(導き方を説明せずに)結果だけをのせ、それを使う練習から始まるものが多い。
しかしながら、この本は定義およびそれに基づき公式を導き出す説明から始まり「検定教科書」とは違った切り口で受験レベルの数学までを説明してあり、内容は教科書である。事実、前身はSEG出版の「受験教科書」である。
受験数学教育史上においても重要なのは、この本の前身の「受験教科書」が日本で最初の(大学受験のための)「検定外教科書」であるという点である。
1990年代「教科書」といえば「検定教科書」が「常識」であった。教科書というのは「文部科学省(当時文部省)の定めた指導要領にしたがって厳格に書かれたもの」であり、参考書はそれに追随するものという立場であった。ところが「ゆとり教育」が叫ばれるようになり、高校数学も大幅に内容を削減された。しかも単に削減されるだけではなく、その削減された新しいカリキュラムに多くの矛盾点も指摘されるようになった。それでもそのカリキュラムにしたがって(カリキュラムに従った方法で)数学を学習しなければならないのは、「検定教科書」しかなかったらである。
そんな状況を危惧し、著者の清史弘は文部科学省のカリキュラムに縛られない高校3年間を(場合によってはそれ以降も)見通した「検定外教科書」を作成した。それが「受験教科書」である。
その後、SEG出版の消滅とともに駿台文庫に移行され、それがこの「受験数学の理論」である。
ひとたび「検定外教科書」が出版された後は、同じような内容のものがいくつかの出版社から発行されることになったが、最初の「受験教科書」がなければ、今でも高校数学においては文部科学省のカリキュラムに完全に追随していた可能性は大きい(このカリキュラムのすべてがよくないわけではない)。