和製漢語
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和製漢語(わせいかんご)とは、日本で造られた、漢字の音を用いて読む言葉。古くから例があり、特に、幕末以降、西欧由来の新概念などを表すために盛んに造られるようになった。日本製漢語。
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[編集] 幕末以前の和製漢語
日本語では古来、中国から大量の漢語、すなわち中国語の単語を借用してきたが、漢語の造語法に習熟するに従い、独自の和製漢語を造るようになった。その造語法をみると、まず、漢字で表記した大和言葉を音読したものがある。例えば、「火のこと」を「火事」、「おほね」を「大根」、「腹を立てる」を「立腹」とする類である。また、中国語にない日本特有の概念や制度、物を表すために、漢語の造語法を用いたものがある。「介錯」「芸者」「三味線」などがその例である。
[編集] 幕末以降の和製漢語
幕末・明治時代には、西洋の文物を漢語によって翻訳した和製漢語が多く作られた。これらを「新漢語」と呼ぶことがある。ただし、新漢語の割合は、漢語全体から見れば少ない。戦後の調査によれば、新聞・雑誌の二字漢語の上位1,000語のうち、902語は明治以前に存在したものである(宮島達夫「現代語いの形成」『国立国語研究所論集3 ことばの研究』秀英出版 1967)。
新漢語は2種に分けられる。1つは、「哲学」「郵便」「野球」など、新しく漢字を組み合わせて造った文字どおり新しい語である。もう1つは、「自由」「観念」「福祉」など、古くからある漢語に新しい意味を与えて再生した語である。後者を狭義の和製漢語には含まないこともある。近代以降は、「‐性」「‐制」「‐的」「‐法」「‐力」などの接辞による造語も盛んになり、今日でもなお新しい語を生産している。
和製漢語は、特に近代以降、中国に逆輸出されたものも少なくない。これを日本の大陸進出と結びつけて考える向きもあるが、むしろ、中国が近代化を遂げる過程で、日本語の書物が多く翻訳されたことが与って大きい。中国語になった和製漢語の例として、「意識」「右翼」「運動」「階級」「共産主義」「共和」「経済」「左翼」「失恋」「社会主義」「進化」「接吻」「唯物論」など種々の語がある。今日の中国の体制に必要不可欠な概念も含まれている。
また、戦後は日本のテレビドラマなどで日本の文化が中国でも紹介されるようになり、和製漢語が知られるようなった。「花嫁」という和製漢語が中国のブライダル業界では当たり前のように使用されるようになったのが好例である。
[編集] 和製漢語に関する見解
中国文学者の高島俊男は『漢字と日本人』の中で、幕末までの和製漢語と、幕末以後の和製漢語を比べ、その違いについて見解を述べている。その要点は以下の通りである。(1)江戸時代以前に成立した「三味線」などは、和製漢語は耳で聞いて意味が明確である。一方で、明治以降に造語された「真理」などは「心理」、「審理」、「心裡」と紛らわしい。(2)明治以降に造語された和製漢語は、中国人が見ても文字から意味が推測できるのに対して、江戸時代以前の和製漢語は、それが非常に困難である(「世話」は「世の中の話」という意味ではなく、「無茶」は「お茶が無い」という意味ではない)。
[編集] 参考文献
- 陳力衛『和製漢語の形成とその展開』(汲古書院 2001)
- 刘正埮・高名凯・麦永乾・史有为『汉语外来词词典』(上海辞书出版社 1984)
- 高島俊男『漢字と日本人』(文春新書 2001)