常染色体性優性多発性嚢胞腎
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常染色体性優性多発性嚢胞腎(Autosomal dominant polycystic kidney disease, ADPKD)は、ポリシスチン蛋白をコードする遺伝子異常によって、腎臓に嚢胞が多発し、徐々に腎不全に至る疾患。
尿細管・間質には炎症所見がみられ、実質正常細胞がアポトーシスを起こし線維化する。終末期には、嚢胞を線維の帯が囲むようになる。
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[編集] 病態
両側の腎臓において、細胞外マトリクス異常に起因して、既存の尿細管上皮の1%から発生した尿細管上皮が脱分化増殖し、肉眼的に見える孤立球状嚢胞が年齢と共に増加。腎臓の皮質・髄質の「Bowman嚢から腎乳頭先端」のどこにでも多発する。嚢胞は径数mmを超えると、4分の3は尿細管から分離し、孤立嚢胞を形成する。上皮が腔内へ尿様の電解質液を分泌する(上皮の極性は保持される)ため、嚢胞は徐々に増大するとともに、腎は概形は保ちつつ両側性に肥大し、時に3kgにも達する。腎杯はおおきく歪む。この嚢胞は、周辺実質の機能障害を起こし、炎症細胞が浸潤し、正常細胞がアポトーシスするため、腎機能が低下する。
嚢胞の拡大につれて周囲動脈は伸展・障害は、糸球体濾過量(GFR)低下とレニン - アンギオテンシン - アルドステロン系賦活によって、高血圧を起こす。20代 - 30代に発症(gene carrierは80歳までに100%が発症)する。終末期には、間質の線維化と細動脈硬化によって、半数は70歳までに腎正常実質はわずかになって末期腎不全に至る。このとき、腎臓はもとの数倍の大きさになる。
[編集] 原因
細胞外マトリクスからの(増殖・分化・輸送の)シグナルの細胞内への伝達に関与する「ポリシスチン蛋白」をコードするPKD1(頻度85%)・PKD2(頻度15%)などの遺伝子異常が基礎にあり、second hitで発症。
欠失、ミスセンス、フレームシフトはすべてポリシスチンの機能を下げる。
[編集] 疫学
優性遺伝疾患としては、家族性高コレステロール血症に次いで多い。全世界に分布し、500人に1人が発症する。
[編集] 予防
発症を遅らせるなどの予防法は知られていない。
[編集] 症状
高血圧は必発症状で、腎肥大のために腹部膨満、易疲労、腰背部痛も起こりうる。
[編集] 合併症
細胞外マトリクス遺伝子の異常であるため、全身の結合組織が異常の要素を持ちうる。肝臓・膵臓・脾臓・クモ膜などに嚢胞ができるほか、頭蓋内動脈瘤や僧房弁逆流症を起こす。頭蓋内動脈瘤は高血圧と共に頭蓋内出血の危険因子となる。
[編集] 検査・診断
肉眼的血尿・蛋白尿がみられる。嚢胞が感染を起こすと、頭痛・発熱を起こす。腹部エコーやCTにより、両側の腎臓に多発する嚢胞がみられる。PKD1、PKD2の遺伝子解析も可能だが、それ以外の未知の原因遺伝子もあることがわかっている。
[編集] 治療
特異的な治療法はない。高血圧や腎機能の低下に対し、対症療法を行う。腹部圧迫症状が著しい場合は、姑息的に嚢胞穿刺するが、感染には注意する。
[編集] 予後
発症すれば、いずれは末期腎不全に至り、人工透析を要する。頭蓋内動脈瘤の破裂は致命的になりうる。
[編集] 診療科
内科、特に腎高血圧内科が専門科である。