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高血圧

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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高血圧(こうけつあつ、Hypertension)とは、血圧が正常範囲を超えて高く維持されている状態である。高血圧自体の自覚症状は何もないことが多いが、虚血性心疾患脳卒中腎不全などの発症リスクとなる点で臨床的な意義は大きい。生活習慣病のひとつであり、肥満高脂血症糖尿病との合併は「死の四重奏」「syndrome X」「インスリン抵抗性症候群」などと称されていた。これらは現在メタボリックシンドロームと呼ばれる。

目次

[編集] 定義(診断)

日本高血圧学会では高血圧の基準を以下のように定めている。

分類 収縮期血圧(mmHg)   拡張期血圧(mmHg)
至適血圧 <120 かつ <80
正常血圧 <130 かつ <85
正常高値血圧 130~139 または 85~89
軽症高血圧 140~159 または 90~99
中等症高血圧 160~179 または 100~109
重症高血圧 ≧180 または ≧110
収縮期高血圧 ≧140 かつ <90

すなわち、収縮期血圧が140以上または拡張期血圧が90以上に保たれた状態が高血圧であるとされている。しかし、近年の研究では血圧は高ければ高いだけ合併症のリスクが高まるため、収縮期血圧で120未満が生体の血管にとって負担が少ない血圧レベルとされている。

ここで注意すべきは、血圧が高い状態が持続することが問題となるのであり、運動時や緊張した場合などの一過性の高血圧についての言及ではないと言うことである。高血圧の診断基準は数回の測定の平均値を対象としている。運動や精神的な興奮で一過性に血圧が上がるのは生理的な反応であり、これは高血圧の概念とはまた違うものである。

血圧は1日の中でも変動している。そのため計測する時間帯には正常値の基準を満たしているものの、その他のほとんどの時間帯には高血圧となっている場合がある。これを仮面高血圧と呼ぶ。また降圧剤が処方されている場合でも、その効果が切れている時間帯では安全域を外れている場合もある。この点にも留意する必要がある。逆に、普段は正常血圧なのに診察室で医師が測定すると血圧が上昇して、高血圧と診断されてしまう場合もあり、”白衣高血圧”とよばれる。

[編集] 原因

高血圧は原因が明らかでない本態性高血圧症とホルモン異常などによって生じる二次性高血圧に分類される。 本態性高血圧の原因は単一ではなく、両親からうけついだ遺伝的素因が、生まれてから成長し、高齢化するまでの食事、ストレスなどのさまざまな環境因子によって修飾されて高血圧が発生するとされる。(モザイク説)

  • 遺伝:両親の一方あるいは両方が高血圧であると高血圧を発症しやすい。
  • 塩分:日本人の高血圧の発生には食塩過剰摂取の関与が強いとされる。日本人の食塩摂取量は1日平均12gであり、欧米人に比べて多い。日本人の食塩嗜好は野菜の漬け物、梅干し、魚の塩漬けなど日本独自の食生活と関連があるが、2004年版に発行された日本の高血圧治療ガイドラインでは1日6g未満という厳しい減塩を推奨している。

食塩の過剰摂取が高血圧の大きなリスクとなるのは、身体の電解質調節システムに原因がある。細胞外液中でナトリウムをはじめとする電解質の濃度は厳密に保たれており、この調節には腎臓が大きな役割を果たしている。すなわち、濃度が正常より高いと飲水行動が促され、腎では水分の再吸収が促進される。反対に濃度が低い場合は腎で水分の排泄がすすむ。

  • 結果として、血中のナトリウムが過剰の場合は濃度を一定に保つため水分量もそれに相関して保持され全体として細胞外液量が過剰(ハイパーボレミア:hypervolemia)となるのである。腎のナトリウム排泄能を超えて塩分を摂取している場合、上記のメカニズムで体液量が増加して高血圧を来す。ナトリウム過剰で高血圧を来たし易い遺伝素因も存在することが確認されている。
  • ストレスや肥満なども高血圧の発症に関与するとされる。

[編集] 分類

このほか、脳血管障害の急性期に著明な高血圧を来すことが知られている。脳出血では応急的な降圧が必要だが、脳梗塞ではむしろ脳血流を保てなくなる恐れがあるため降圧は行われない。

[編集] 高血圧の合併症

高血圧が持続すると強い圧力の血流は動脈の内膜にずり応力を加わると同時に血管内皮から血管収縮物質が分泌されることで、血管内皮が障害される。この修復過程で粥腫(アテロームが形成され、動脈硬化の原因となる。高血圧によって生じる動脈硬化の結果、以下のような合併症が発生する。

脳卒中 
脳出血脳梗塞およびクモ膜下出血に分類されるが、高血圧と関連が深いのは前2者である。脳出血は高血圧ともっとも関連するが、最近は降圧薬治療がうまく行われるようになったため、その頻度は減少してきている。一方脳梗塞の頻度はむしろ増加し、その発症年齢も高齢化している。脳卒中の結果として片麻痺、失語症、痴呆など寝たきりの原因となりやすい後遺症を残すため、社会的、経済的観点からも高血圧の予防はきわめて重要である。
虚血性心疾患 
心筋梗塞狭心症などの冠動脈の硬化によって心筋への血流が阻害されることで、心筋障害をきたす疾患群をいう。高血圧が虚血性心疾患の重大な危険因子であることは間違いがないが、高コレステロール血症、喫煙、糖尿病、肥満などの関与も大きい。最近は腹部内蔵型肥満に合併した高血圧や高トリグリセライド血症、耐糖能障害などが冠動脈疾患のリスクであるとされ、メタボリック症候群として注目されている。
腎障害 
腎臓糸球体細動脈の束になったものであり、高血圧によって傷害される。また、糸球体高血圧がレニン-アンギオテンシン系を賦活するためさらに血圧を上昇させる。糸球体は廃絶すると再生しないため糸球体障害は残存糸球体への負荷をさらに強めることとなる。最終的には腎不全となり人工透析を受けなければならずやはり社会的、経済的な負担は大きく、その進展予防は重要である。
眼障害 
高血圧性網膜症や、網膜動脈・網膜静脈の閉塞症、視神経症などさまざまな眼障害を合併する。
心肥大、心不全 
高血圧が持続するとは心臓の仕事量が増えて、心筋が肥大してくる。肥大した心筋はさらに高血圧の負荷によって拡張し、最終的には心不全に陥る。また肥大した心筋では冠動脈からの血流も減少するために、虚血に陥りやすく、虚血性心疾患の大きなリスクとなる。
動脈瘤 
胸部や腹部の大動脈の壁の一部が動脈硬化性変化によって薄くなり、膨隆した状態を大動脈瘤という。内径が5cm以上になると破裂する可能性が高くなるので、手術適応となる。また血管壁の中膜が裂けて、裂け目に血流が入り込み、大血管が膨隆する状態を;解離性大動脈瘤 といい、生命を脅かす危険な状態である。
閉塞性動脈硬化症 
主に下肢の動脈が、動脈硬化によっていちじるしく狭小化するか、あるいは完全に閉塞した状態をいう。数十メートル歩くとふくらはぎが痛くなり、立ち止まると回復する場合には、この疾患をうたがう。
高血圧緊急症 
上記のような慢性的な影響とは別に、急激な高血圧により脳圧が亢進し頭痛・視力障害などの急性症状を引き起こした状態は高血圧緊急症または高血圧脳症と呼ばれる。治療として降圧薬および脳圧降下薬が投与される.

血圧降下により症状が消失することにより診断される。

[編集] 診断

血圧は変動しやすいので、高血圧の診断は少なくとも2回以上の異なる機会における血圧測定値に基づいて行われるべきである。最近は家庭血圧計が普及しているが、家庭で自分自身で測定した血圧値の方が、診察室で医師や看護師によって測定した血圧値よりも将来の脳卒中や心筋梗塞の予測に有用であるとする疫学調査結果があいついで報告されている。診察室での血圧測定では、白衣高血圧(医師による測定では本来の血圧より高くなる現象)や仮面高血圧(普段は高血圧なのに、診察室では正常血圧となる現象)が生じるため、必ずしも本来の血圧値を反映していないという考え方が普及している。家庭での正常血圧値は診察室での血圧値よりもやや低いために、家庭血圧では135//80mmHg以上を高血圧とする。家庭では朝食前に2回血圧を測定することがのぞましい。心筋梗塞や脳卒中の発症は朝起床後に多発することから、早朝の高血圧管理が重要である。(早朝高血圧) 脳卒中や心筋梗塞の発症には高血圧のみならず、喫煙、高脂血症、糖尿病、肥満などの他の危険因子も関与するために、危険因子や合併症も考慮した高血圧の層別化によって将来の脳卒中、心筋梗塞の危険度の予測能が高まる。。

[編集] 管理・治療

ガイドラインに定められた期間を食事療法運動療法を行い、それでも140/90mmHgを超えている場合は降圧薬による薬物治療を開始する。近年は大規模臨床試験がいくつも出そろい、高血圧治療指針(ガイドライン)では科学的根拠に基づいた降圧薬の選択を推奨している。

  • 食事療法
    • 食塩制限
      原因によらず、ほぼすべての高血圧で塩分摂取制限は必須となる。健康ブームに乗って「この天然塩はミネラル豊富なため多く摂っても高血圧にならない」などの宣伝が散見されるが、このような文言を鵜呑みにすることは非常に危険であると言わざるを得ない(上記メカニズムにより、問題は食塩の質ではなく量である)。
  • 禁煙
    喫煙など動脈硬化を促進する生活習慣も断つ必要がある。
  • 薬物療法(降圧薬)
    1. なにもリスクがない患者では、コストが安い利尿薬やカルシウム拮抗薬を第一選択とする。60歳未満ではACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬なども用いられる。
    2. 降圧利尿薬は古典的な降圧薬であるが、低カリウム血症、耐糖能悪化、尿酸値上昇などの副作用にもかかわらず、最近の大規模臨床試験の結果では、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、Ca拮抗薬などの新しい世代の降圧薬に劣らない脳卒中、心筋梗塞予防効果が証明されており、米国では第一選択薬として強く推奨されている。降圧利尿薬は痛風の患者には使用するべきではない。
    3. 糖尿病や腎障害の患者では、ACE阻害薬またはAII拮抗薬を第一選択とするが、これらの合併症がある場合には、130/80mmHg未満の一層厳格な降圧が必要とされるために長時間作用型Ca拮抗薬の併用も不可欠である。腎障害が高度な場合にはACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬は用いることができない。
    4. 心不全の患者では、ループ利尿薬に加えて、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬の併用が有効である。最近βブロッカーの少量追加も有効であるとのエビデンスも蓄積されている。
    5. 虚血性心疾患の患者では、従来はβブロッカーが第一選択であったが、最近はACE阻害薬またはAII拮抗薬や長時間作用型Ca受容体拮抗薬の有用性も証明されている。とくに冠動脈のれん縮による狭心症合併例では長時間作用型Ca拮抗薬が有効である。
    6. 高齢者高血圧に関して、以前は根拠がないままに積極的な降圧は必要がないとされていたために2000年版の日本の高血圧治療ガイドラインでも高齢者では高めの降圧目標値が設定されてきた。しかし最近の大規模臨床試験では年齢に関わりなく積極的な降圧が必要であることを明らかにしており、欧米の高血圧治療ガイドラインでは年齢による降圧目標値の設定はおこなっていない。また日本の高血圧治療ガイドラインも2004年版では高齢者高血圧も140/90mmHg未満までの降圧が必要であるというように変更された。
    7. 妊婦に対しては、多くの降圧薬に催奇形性があるかあるおそれがあり、ヒドララジン、αメチルドーパのみを使用する。
    8. αブロッカーは、基本的に推奨されないが、前立腺肥大症を合併している患者などでは有用かもしれない。しかし、 αブロッカーは最近の大規模臨床試験ではもっとも古典的な降圧薬である降圧利尿薬よりも脳卒中や心不全予防効果が劣ることが明らかになり、最近の欧米の治療ガイドラインでは第一選択薬からはずされている。

日本では相変わらず主治医の裁量ではあるが、その裁量を欧米の医療に即している医師と、上記のうちいくつかを改変した日本独自の考え方をもつ医師がいる(こちらのほうが多い)。日本独自の考え方としては、

  1. 日本の医療は国民皆保険でありコストを考える必要はあまりないため、安価で切れ味の悪い利尿薬をわざわざ使用する必要はなく、たとえリスクの低い患者であっても最初から高価で切れ味の良いACE阻害薬やAII拮抗薬から始めても良い。
  2. Ca受容体拮抗薬は副作用が少なく血圧を大きく下げるため、多くの場合で有用である。危険因子として特に比重の高い、脳出血は同剤の開発後、降圧療法が効率的に行える様になり、減少している。虚血性心疾患においても、日本人では冠攣縮の関与が大きく、Ca受容体拮抗薬が有効である。
  3. 降圧利尿薬は廉価であるが、耐糖能の悪化や尿酸値上昇、低カリウム血症といった副作用により、敬遠する医師が多かった。しかし多くの臨床試験によってACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬などの最近の高価な降圧薬と同等か、それ以上の脳卒中、心筋梗塞予防効果が明らかになっており、最近見直され処方する医師が増えている。


[編集] 関連項目

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